2018 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ南部文学の戦後性について――戦後日本文学との比較考察
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16K02510
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 和彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10205594)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アメリカ南部文学 / 戦後日本文学 / 戦後性 / 敗北の文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、これまでの作業に引き続き、アメリカ南部文学を「戦後文学」と規程する場合の「戦後性」について、我が国のいわゆる「戦後文学論争」にお ける「戦後性」にまつわる議論を検証し、定式化を行ない、その結果を南部文学作品読解に援用することの可能性を探求する作業を行った。 具体的には臼井吉見の2巻本『戦後文学論争』ならびに佐藤静夫の『戦後文学論争史論』に取材した戦後日本における戦後文学論争の方向を前提としつつ、その射程を、小島信夫、安岡章太郎、庄野潤三などのいわゆる「第三の新人」の文学への新たな理解へと延長するにあたり、新たに金志映が『日本文学の〈戦後〉と変奏される〈アメリカ〉――占領から文化冷戦の時代へ』において示した功績をも参照しながら、より包括的な戦後文学における「戦後性」の検討・吟味を行った。 アメリカ南部文学の方面にあっては、南北戦争以後の敗北の文化の存続の様態を、20世紀第1四半世紀におけるいわゆる「南部文芸復興」期以降に、具体的にいえば南部文学の巨人ウィリアム・フォークナー以降に、その影のもとに新たな文学のあり方を模索したカーソン・マッカラーズおよびトルーマン・カポーティの文学の内向性あるいは情緒性のなかに見出そうとする試みを行い、さらにフォークナーと同時代、「文芸復興」の盛期を担った作家のうちロバート・ペン・ウォレンを取り上げ、批評家でもあり、独特の南部史観を有するこの作家の一種の宿命感と南部文化の基底に滞留する敗北の文化との関係を位置づけることを試みた。 以上の作業のプロセスに、ウィリアム・フォークナーの代表作『八月の光』と小島信夫の異色作『墓碑銘』における「混血児」を敗北の文化の表象の顕著な事例として比較考察した論考を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題が試みようとするところは、おおまかに分けて2点あるが、ひとつは日本の戦後文壇において大いに論争の的となった「戦後文学」の戦後性の一般 的特徴について定式化を試みること、今ひとつはその定式をアメリカ南部文学史上、主要な3つの時期(1.南北戦争後から19世紀末まで、2.20世紀初頭のい わゆる「南部文芸復興期」、3.ヴェトナム戦争期)におけるそれぞれ代表的な作品群それぞれに適用し、比較検討を行うことで、南部文学の戦後性を析出する こと、あるいは具体的にはこれまで申請者が過去の科研申請研究を通じて戦後文学としての南部文学に関するテーゼを検証ならびに補完することにある。 当該年度は、昨年度に比して、諸学会等で研究成果を発表する機会には恵まれなかったとはいえ、上記3期間のうち第2期、および第2期から第3期の過渡期にあたる南部作家(上記「研究概要」の具体名を記した)の作品の検証を行い、本研究のこれまでの成果を踏まえた研究論文を出版することができた。 また金志映による重厚な戦後日本文学研究に接し、すでに昨年度の業績報告でその有効性を指摘しておいた朴裕河の引揚文学論と合わせ、日本の戦後文学における「戦後性」についての新視点を構築する可能性を見出し、申請者の目指す包括的な「戦後性」フォーミュラの拡充にこれを寄与せしめる道が開けたように理解している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる今年度は、アメリカ南部文学における南部性の希薄化がこれまで問題視されてきた第二次世界大戦以降あるいはさらにヴェトナム戦争以降の南部文学のうち、ウォーカー・パーシィ、バリー・ハナなどを主たる研究対象とし、南部における敗北の文化の現代的展開について分析検討を行う予定である。 一方、戦後日本文学における「戦後文学論争」プロパー、その直後に反省的に編まれた戦後文学論争研究に、上記、金ならびに朴の海外の研究者たちによる戦後文学研究の視点を加え、またこの方面の新しい功績があればそれにも注目を怠ることなく、アメリカ南部文学にも適用可能な「戦後性」フォーミュラの完成を目指したい。場合によっては、韓国に研究拠点をもつ、金ならびに朴のもとを訪ね、協働の可能性を探る道がないか検討したいと思っている(すでに朴教授は立命館大学主催のシンポジアムに参加し、直接的な知己を得ている)。
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Causes of Carryover |
若干の残額は、物品費として見込んでいた図書費が予定より安価に入手できたり、図書館等で別途利用可能であることが判明したことに加え、購入予定にしていたコンピュータ関連物品を買い控えることができたため。
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