2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02511
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Research Institution | Wako University |
Principal Investigator |
余田 真也 和光大学, 表現学部, 教授 (20277750)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ジェラルド・ヴィゼナー / ポストインディアン / オジブウェ(アニシナベ) / 保留地 / モダニズム / エグザイル / 部族憲法 / 世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は北米先住民作家の文筆活動と部族社会との関係の探求を通じて、先住民文学の普遍的な意義を考察しようとするものである。まず準備的な作業として、現代作家や報道メディアの言説を対象に「ポストレイシャル」といわれる現代の北米に残存する先住民性の搾取や蔓延するレイシズムの実情を確認したうえで、現代の部族社会が抱える課題の把握に務めた。その成果の一部はアメリカ学会年次大会の部会において報告した。その後、三人のオジブウェ(アニシナベ)作家─Gerald Vizenor, David Treuer, Louise Erdrich─と部族社会との関係について年度毎に検証する計画に則り、2016年度はヴィゼナー文学の部族性について、ミネソタ州での調査もふまえて検証し、二本の論文にまとめた。 ヴィゼナーは2007年にホワイトアース憲法会議委員に任命され、2009年には憲法主筆の役割を果たした一方で、それ以後に発表した小説─Shrouds of White Earth(2010)と Treaty Shirts(2016)─では、部族議会や伝統主義者を辛辣に批判している。研究書の分担執筆論文では、住民投票で可決されたホワイトアース憲法が履行されていない事情を詳らかにしたうえで、保留地から追放されたエグザイルの芸術活動に部族社会の未来を託すヴィゼナーの創作を、部族社会の歪みに象徴的な解消をもたらす「コスモプリミティヴ」なふるまいと解釈した。学会誌の論文では、小説Blue Ravens (2014) に焦点を当てて、ヴィゼナーの祖父世代にあたる双子兄弟の半生─保留地での生活、第一次世界大戦への出征、パリでの創作家としての成功─を通じて保留地と外部を関係づけながらネイティヴ・モダニズムの出現を言祝ぐヴィゼナーの創作を、部族社会に「コスモトーテミック」なヴィジョンをもたらす企てと解釈した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度はヴィゼナーの文学実践と部族社会の関係性について、その普遍的な意義にも絡めながら、有意といえる研究成果を得ることができた。その成果は主に2010年以降のヴィゼナーの著作を対象として導きだしたものだが、研究の完了までには、いま一度それ以前の著作にも立ち返って有効性を確認する作業は必要であろう。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に則り、2017年度はデヴィッド・トロイヤーの文筆活動と部族社会の関係性の探求に焦点をあてる。リーチレイク保留地への帰属を表明し、オジブウェ語にも通じたトロイヤーだが、彼を部族民と認めない向きもある。現地調査も交えながらトロイヤー文学の部族性を検証し、彼の文学実践の普遍的な意義に迫りたい。 部族社会における作家の評価を測るための一助として、オジブウェの保留地内外の教育機関での聞き取り調査を試みる予定だが、2016年度の現地調査によれば、部族コミュニティ・カレッジでは、本研究が扱う先住民文学を対象とする授業はほとんど実施されておらず、また保留地近郊の大学では、先住民文学文化研究が実施されているとしても、受講生の多くが非先住民だという。今後も事情が変わらない可能性は高く、現地調査においては学生を対象にしたアンケート調査よりも、教職員その他の部族民への聞き取り調査を継続して優先することになる。
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Research Products
(3 results)