2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02511
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
余田 真也 東洋大学, 文学部, 教授 (20277750)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ルイーズ・アードリック / オジブウェ(チペワ) / 正義三部作 / 贖いと癒し / 犯罪と処罰 / 部族伝統の継承 / 子供の役割 / 物語構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度のGerald Vizenorと2017年度のDavid Treuerに続いて、2018年度は同じくアメリカ先住民オジブウェ(タートル・マウンテン・チペワ)に帰属する作家Louise Erdrichの文筆活動に焦点を当てて研究を進めた。とりわけ「正義三部作」と称される、文壇の評価も高い近年の三作品(The Plague of Doves [2008], The Round House [2012], LaRose [2016])を精読し、伝記情報や先行研究や先住民関連資料を収集・調査して、研究の基盤となるデータを蓄積した。また彼女の実人生や作品に縁のあるノースダコタ州、ミネソタ州、カナダのオンタリオ州を訪問し、故郷ウォーピトン、タートルマウンテン保留地、先住民の史跡や文化施設、彼女が経営する書店などでの視察や聞きとりを行った。そうした現地調査の成果もふまえながら、彼女の文学実践を部族性と普遍性の両面から理解しようと努めた。 具体的な成果の一部として、全米批評家協会賞に輝いた小説LaRoseに焦点を当てた論文を執筆し、オジブウェ一家と白人一家の間に起きた悲劇の贖いと癒しをオジブウェの子供(5歳~9歳)が媒介するこの小説において、アードリックがいかに正義の成就と文化の伝承と子供の役割を関連づけているのかを検証した。また19世紀末にノースダコタで起きた先住民リンチ事件を虚構化して基盤にすえ、架空の部族共同体における数世代にわたる人間関係を複層的な語りで紡ぐ小説The Plague of Dovesや、司法の限界のために正当な裁きを受けないレイプ殺人事件の容疑者を、被害者の13歳の息子が秘密裏に裁いた顛末を当人が回想する小説The Round Houseもあわせて、アードリックが部族的な主題と小説的な物語作法をいかに調停しているのかを解明しようとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度は当初予定していたように、アードリック研究の新機軸を見いだし、彼女の文学実践の部族的かつ普遍的な意義を導きそうと努めたが、十分な研究時間が確保できなかった。主な研究対象として措定した三作品のうち、LaRose以外の作品については研究成果がまとまっておらず、また正義三部作以外の作品への目配りも十分とはいえず、成果の発表とあわせて次年度に持ち越すことにした。また、2017年度に積み残したトロイヤー研究の課題についても、研究時間が確保できず、次年度に繰り越すこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年の未達事項としてあげたトロイヤーの研究課題については、部族性に照射した作品研究の基礎データがある程度は準備できているので、それを進展させて具体的な成果の発表への目処をつけたい。また2018年度の未達事項としてあげたルイーズ・アードリックの研究課題については、部族的な主題と小説作法の関係についての研究をまとめ、学会で成果を発表する予定である。並行して、当初の研究計画に則り、ヴィゼナーとトロイヤーとアードリックに代表されるオジブウェ作家の文学営為と部族社会の関係性を総括し、可能な限りで他のオジブウェ作家や先住民作家の文筆活動にも目配りしながら、先住民文学の普遍的・越境的な意義へと結びたい。
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Research Products
(1 results)