2018 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ絵本の黄金時代を創った編集者メイ・マッシーの思想
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16K02512
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Research Institution | Keiwa College |
Principal Investigator |
金山 愛子 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (90257436)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | メイ・マッシー / 絵本 / 思想 / 移民 / 他の声 / 他の文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、アメリカが多くの移民を受け入れた時代(19世紀終わりから20世紀半ば)に、児童書の出版者として活躍したメイ・マッシーの出した絵本や物語の特徴と彼女の思想との結びつきについて研究してきた。アメリカ絵本の黄金時代の創出に貢献したマッシーら編集者や図書館員、書店員は、アメリカの子ども達が「他の声」「他の文化」に耳を傾け意識を向けるだけでなく、移民の子どもたちに楽しみを与え、また自分の先祖の国を知る機会を提供することにも尽力した。 編集者であるマッシーがその思想を具体的にどのような言葉によって表していたのかを2017年度に収集した資料から読み解き、彼女が出版した作品にどのように具体化され、彼女がどのような本を良しとしたのかを研究した。一例として、彼女がよい本の例として挙げたマージョリー・フラック文、クルト・ヴィーゼ絵の『あひるのピンのぼうけん』(1933年)、マンロー・リーフ文、ロバート・ローソン絵『はなのすきなうし』(1936年)を検証した。マージョリー・フラックのできるだけ言葉を削ったストーリーテリングの巧みさと、言葉と挿絵とが補完しながら絵本の完璧な完成形を構築し、読み手に心地よいリズムを与えるだけでなく、幼い子どもに「遠く離れた」冒険の感覚を教えてくれることを、マッシーがインタビューで述べていることをテキストで照合しながら検証した。『はなのすきなうし』では、はっきりした骨太の構成と、他人とは違った「自分自身であること」への欲求に共鳴するメッセージ性が評価できるとマッシーは考ええいたと思われる。子どもの本は美しくなければならないと考えていたマッシーの思想をこれらの代表的な作品で検討した。 この研究成果は第21回絵本学会(於 札幌大谷大学短期大学部)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マッシーによる雑誌投稿記事、インタビュー記事、書簡などに見られるマッシーの思想についてはおおむね把握できたが、出版した作品は膨大な数に上るため、作品の検証が当初の予定よりも遅れている。 また、当初の計画では日本国内の図書館員への調査により、今日本ではどのくらいメイ・マッシー・ブックスが読み継がれ、子ども達に受容されているのかを研究に含めていたが、子ども図書館の中心的存在である東京子ども図書館では電子化がされておらず、貸出数等の数値化が困難なため断念した。その代わりに、アメリカ絵本の創り手たちの思想基盤は超越主義が形成したのではないかという仮説を検証するということに方向修正をしたため、研究の進捗状況はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はアメリカ絵本の黄金時代の創り手たちの思想が、エマソンらの超越主義につながっているという仮定で、彼らのもつ子ども観の基盤となる思想的裏付けを検証していく。そのためには『ホーン・ブック・マガジン』をさらに講読することや、超越主義についての理解を深めることが必要となる。最終的に編集者としてのメイ・マッシーが作家や画家に与えた影響と、その結果としてどのような形の絵本や物語として結実したか、その思想的背景をまとめる。 そのためにはすでに購入した書籍の他に、メイ・マッシー・ブックスならびに東京大学教養部の図書館にて『ホーン・ブック・マガジン』をさらに閲読する計画である。
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Causes of Carryover |
図書館等での閲読を計画していたが、勤務校等での業務が重なり出張を断念したことと、海外からの百科事典セットを購入する計画であったが、送料が想定以上に高額なため購入を断念したため、次年度使用額が生じた。
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