2017 Fiscal Year Research-status Report
ウォートンの創作と建築の連携―空間の創出から文学的想像力へ
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16K02516
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
石塚 則子 同志社大学, 文学部, 教授 (80257790)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドメスティック・スペース / イーディス・ウォートン / ジェンダー・スペース / ドメスティシティ / キャサリン・ビーチャー / 住宅建築 / 男女の領域分離主義 / 屋内装飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年7月5-8日に韓国ソウル市延世大学で開催された第7回ヘンリー・ジェイムズ国際学会“Jamesian Cultural Anxiety in the East and in the West”において口頭発表をするために応募し、選考の結果採択された。欧米とともにアジアのジェイムズ研究家と意見交換ができ、大変有益な機会となった。発表の題名は、“Cosmopolitan or ‘Home’-less?: Henry James's Transcultural and Architectural Imagination"であり、本論考は、晩年のジェイムズのヨーロッパとアメリカに対するコスモポリタンな視座と建築のメタファーを検討したものであり、Proceedingsに採録された。 同年11月4日に同志社大学今出川校地で開催された日本アメリカ文学会関西支部11月例会において、本研究の成果の一部として「アンテべラム期のふたつのドメスティシティ論――Andrew Jackson DowningとCatharine Beecherの住居観」を発表した。1840年代には、近代化とともに独立国家として邁進していくアメリカの歴史的・政治的ダイナミズムと共振する形で、アメリカ独自の住居観が展開された。「ホーム」という言葉には、単に建築物としての「家」だけではなく、家族の理想や生き方、さらにはアメリカの市民としての共同体や国家とのつながりも「ホーム」に内包され、こうした「ホーム」に付託された社会性・道徳性・政治性がやがて「ドメスティシティ」という一つの理念として構築された。DowningとBeecherそれぞれの住居観において、アンテべラム期のジェンダー空間、つまり男女の領域分離主義がどのように形成され、それがやがて個人主義の台頭とともに自己形成の場へと変化していくかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の当初の目的は、20世紀転換期に活躍した女性作家イーディス・ウォートンを中心に、建築と女性空間(ジェンダー・スペース)、私的/公的空間の創出、文学テクストにおける空間表象を検証することであった。つまり、モダニティ研究として、家庭という空間に閉じ込められていた女性が、ジャンル・ジェンダー・国境を越境しながら、建築を通して公的空間を創造し、社会進出を遂げていくプロセスを考察することであった。こうした女性の領域言説やドメスティシティ言説からの脱却を目指したウォートンの歩みを検証するには、アンテべラム期のアメリカにおけるドメスティシティ言説の構築過程、1990年代後半から盛んにおこなわれてきた領域分離主義の再評価の文脈を理解し、19世紀半ばのドメスティック・スペースに関する資料を検証する必要があると認識した。そのため、当初の研究計画から研究領域や時代を拡大したため、進捗が遅れている。世紀転換期に活躍したウォートンの創作やアメリカの建築史や女性の社会活動を、歴史的・文化的文脈から多角的に検証するため、本年度は1830年代からの国家建設のイデオロギーと密接に関わる住宅建築や、住居観の発展とドメスティシティ言説強化の連動を考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
キャサリン・ビーチャーの『ドメスティック・エコノミー論』やイーディス・ウォートンの『家の装飾』についての研究成果は、学会で発表した。学会での意見交換で有益な示唆を得て、今後それぞれを論文としてまとめていくところである。すでに、インディアナ大学での在外研究中に主な資料の収集を完了しているが、さらに必要な資料、特にドメスティック・スペースに関する建築学やジェンダー学の論考を収集する予定である。 またウォートンが『家の装飾』で展開した建築や屋内建築に関する理論を、同時期の新古典主義の建築様式やニューポートをはじめとする、アメリカの東海岸に建てられた邸宅建築についての研究と連携させることが今後の課題となる。当時の建築史や「金メッキ時代」や顕示的消費に関する文化研究の観点を取り入れることで、研究がより深化すると考える。2016年度にロードアイランド州ニューポートやウォートンの邸宅「マウント」を訪問し、資料をほぼ収集し、また「マウント」の司書である研究協力者Nynke Dorhout氏やニューポート歴史協会のBertram Lippincott III氏から必要に応じて情報や助言を得る予定である。その論考を踏まえ、世紀末の女性の社会活動の文脈から、ウォートンが公的空間をどのように創出するかを検討する予定である。
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Causes of Carryover |
研究計画を拡大修正し、また学会や本務校の役職のため海外でのリサーチの日程が取れず、当初予定していたアメリカでの資料収集を行えなかった。
昨年度から繰り越した助成金は、研究室のPCの買い替えの費用や資料や調査や学会への旅費に充当する計画である。
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