2018 Fiscal Year Research-status Report
ウォートンの創作と建築の連携―空間の創出から文学的想像力へ
Project/Area Number |
16K02516
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
石塚 則子 同志社大学, 文学部, 教授 (80257790)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ドメスティシティ / イーディス・ウォートン / ジェンダー・スペース / 住居論 / 20世紀世紀転換期 / アメリカ建築史 / 個人主義 / 『家の装飾』 |
Outline of Annual Research Achievements |
助成事業期間3年目となる本年度は、イーディス・ウォートンの最初の出版物であるThe Decoration of Houses(『家の装飾』)を中心に取り上げ、本研究の中心テーマである建築と女性空間、室内空間における私的/公的空間の分節化の重要性について考察した。 具体的には、第35回日本アメリカ文学会中部支部大会(2018年4月21日 愛知大学名古屋キャンパス)のシンポジウム「イーディス・ウォートンの文化的視座とノンフィクション」 において、招待発表「イーディス・ウォートンとドメスティク・スペース――The Decoration of Housesにおける住居論」をおこなった。二人のパネラーとともに今まであまり注目されてこなかったウォートンのノンフィクションを取り上げ、世紀転換期のアメリカとヨーロッパ両方の文化に対するウォートンの視座を考察し、参加者と活発に意見交換をした。拙論では、ウォートンがヨーロッパ建築に造詣が深いことを背景に、『家の装飾』を取り上げ、そこで展開される住居論について論じた。ウォートンの人生や創作に影響を与える住空間の理論がどのように構築され、さらに19世紀後半から目覚ましく発展するアメリカの建築に接続するかを考察した。 上記の学会でのフィードバックを基に、論文「イーディス・ウォートンの「自分だけの部屋」――『家の装飾』における個の空間」にまとめ、『同志社大学英語英文学研究』(同志社大学人文学会)に投稿した。査読の結果、採択され100号(2019年3月)135-163頁に掲載された。結婚を機にいくつかの家の建築に関わった私的な営みから出発したものの、『家の装飾』は著述家として歩み始めるウォートンの創作環境づくりと密接に関わる一方、20世紀転換期のアメリカの建築の発展と個人主義の台頭が投影されたテクストであることを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の当初の目的は、20世紀転換期に活躍した女性作家イーディス・ウォートンを中心に、建築と女性空間(ジェンダー・スペース)、私的/公的空間の創出、文学テクストにおける空間表象を検証することであった。つまり、モダニティ研究として、家庭という空間に閉じ込められていた女性が、ジャンル・ジェンダー・国境を越境しながら、建築を通して公的空間を創造し、社会進出を遂げていくプロセスを考察することであった。こうした女性の領域言説やドメスティシティ言説からの脱却を目指したウォートンの歩みを検証するには、アンテべラム期のアメリカにおけるドメスティシティ言説の構築過程、1990年代後半から盛んにおこなわれてきた領域分離主義の再評価の文脈を理解し、19世紀半ばのドメスティック・スペースに関する資料を検証する必要があると認識した。そのため、2017 年度に当初の研究計画から研究領域や時代を拡大したため、進捗が遅れている。さらに、2017年度より本務校の役職や学会業務の負担が激増し、計画していた時期にアメリカに出向いてリサーチをすることができず、当初予定していた予算を執行することができなかった。その遅れの影響で、2018年度の計画も遅れてはいるものの、本研究の歴史的観点や内容を拡大修正し、成果を積み上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初モダニティ研究として本研究を位置づけていたが、研究対象の時代を拡大修正した。予定より遅れてはいるものの、本研究主題のウォートンの建築と創作の連携をアメリカのドメスティシティ言説の系譜で再定置・再評価するように研究のアプローチを拡大修正し、学会での意見交換で有益な示唆を得て、研究を推進しているところである。すでに、ウォートンや20世紀転換期の関係資料についてはインディアナ大学での在外研究中に主な資料の収集を完了しているが、19世紀前半や南北戦争前後のドメスティック・スペースに関する建築学やジェンダー学の論考を引き続き収集している。研究期間の一年延長が認められたので、今夏アメリカのハートフォード周辺で資料収集を行う計画である。 ウォートンが『家の装飾』で展開した建築や屋内装飾に関する理論を、同時期のニューポートをはじめとする、アメリカ東海岸の邸宅建築についての研究と連携させ、さらにウォートンが社会活動の一環として公的空間を創出する過程を考察することが今後の課題となる。当時の建築史や「金メッキ時代」や顕示的消費に関する文化研究の観点を取り入れることで、研究がより深化すると考える。2016年度にロードアイランド州ニューポートやウォートンの邸宅「マウント」を訪問し、資料収集し、また「マウント」の司書である研究協力者Nynke Dorhout氏やニューポート歴史協会のBertram Lippincott III氏から必要に応じて情報や助言を得られることとなっている。在外研究時代に助言を頂いたJennifer Fleissner教授やDale Bauer教授、さらにヘンリー・ジェイムズ学会で知り合った海外の研究者との交流も続けている。こうした論考を踏まえ、世紀末の女性の社会活動の文脈から、ウォートンが公的空間をどのように創出するかを検討する予定である。
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Causes of Carryover |
2017年度より当初の研究計画の視野を拡大修正し、また学会や本務校の役職のため海外でのリサーチの日程が取れず、当初予定していたアメリカでの資料収集を行えなかったため、研究の進捗が遅れている。昨年度から繰り越した助成金は、海外の研究者との意見交換のための国際学会への参加、今夏のアメリカでの資料収集、国内学会への旅費などに充当する計画である。
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