2019 Fiscal Year Research-status Report
初期アメリカにおける奴隷叛乱事件――文学的・文化的想像力の創生と影響
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16K02517
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
白川 恵子 同志社大学, 文学部, 教授 (10388035)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 初期アメリカ / 奴隷叛乱陰謀事件 / アメリカ文学 / 奴隷制度 / 北米英領植民地 / 南北戦争以前期(アンテベラム期) / ニューヨーク / ストノ、サウスカロライナ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期アメリカにおける奴隷叛乱事件(陰謀含む)についての文学的、文化的考察である。奴隷制度や奴隷叛乱事件といえば、従来は、概ね、南北戦争以前期の南部社会における歴史的事実の提示や文学的考察が中心であったが、本研究では、植民地時代に勃発した奴隷叛乱(陰謀)事件や、北部における奴隷存在の実態が、いかに植民地はもとより、ヨーロッパ列強とも深い関連を示していたかを探るものである。例えば、それは、ニューヨーク植民地における奴隷叛乱(陰謀)事件(1721および1741)や、ニューイングランドと奴隷貿易とのかかわりであり、またサイスカロライナ植民地におけるストノの叛乱(1739)などが、具体的な考察対象となる。 2019年(令和元)年度の研究実績は、以下の通り。①ニューヨーク奴隷叛乱事件に関して、マックファーランドの歴史改変小説の考察論文を共著として出版 ②同事件に関連する別作品(マット・ジョンソン原作のグラフィックノベル)について海外学会で研究発表 ③ストノの奴隷叛乱事件について、19世紀半ばのオサリバンによる領土拡張論との関連を考察する論文を執筆(出版は、2020年5月予定) ④これまでの研究成果(体制転覆的想像力)を単著として上梓 ⑤南部ヴァージニアの1831年奴隷叛乱(ナットターナーの叛乱)についての映画作品についての論文を共著として出版 ⑥その他、これらから敷衍する形で、植民地時代の人種状況を背景とした魔女狩り考察(解説・コラム)を、アメリカ文化史についての共著の中に収録した。 2020年度については、本件研究の最終年度に当たるため、ニューヨークとストノについての包括的まとめを行うと同時に、Pete Hamill, Foreverについての論考をまとめ、余力があれば、Gabriel Prossor's conspiracyの概要にまで至りたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果実績のみを見るならば、むしろ「(1)当初の計画以上に進展している」を選んでも問題はないと思われる。というのも、 2016年度は、2本の論文を共著として出版し(うち1冊は、海外出版社)、ニューヨークとチャールストンでリサーチを行い、その一部を、夏季セミナーで口頭発表した。 2017年度は、1本の論文を共著として出版し、1件の研究発表、1件のシンポジウム、1件招待講演を行った。 2018年度は、1本の論文を共著として出版し、2件の研究発表(うち1件は海外学会)を行い、かつ奴隷制度関連書籍の書評を執筆した。海外発表時に、公民権運動の拠点の一つアラバマ州モンゴメリにおいてリサーチを実施。 2019年度は、単著を上梓し、2本の論文を共著として出版し、解説コラムを共著として出版し、海外学会での研究発表を行った。 2020年度に出版される論文(共著)が、少なくとも2冊はあり、うち1冊は、現在印刷中。また翻訳のプロジェクトも進捗中。 上記に鑑みえれば、毎年確実に、一定以上の成果を上げているのが間違いない。にもかかわらず、あえて(2)を選択したのは、研究が進むにつれて、横方向への関連領域考察が拡大深化する傾向にあり、当初計画していなかった事案についても論考の余地があると分かり、なかなか、ProssorとVeseyの叛乱考察にまでだどりつけないからである。 プロジェクトのゴールは、表層的なまとめではなく、研究がより深化した形態での発展的拡大のほうが望ましく、また研究とは本来そのようなものであると思われるので、今後とも進捗を確認しつつ、次のプロジェクトにもつながるような中身ある論考の構築を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本件課題プロジェクトは、2020年度が最終年である。よって、本年度は、以下を行いたい。 ①Pete Hamillの作品についての考察を行う。②NYのOld Burial Groundについての考察を行い、研究ノートにまとめる。③Horsmandenのテクストを今一度、精読し、これまでの論文内容を補足する。④余力があれば、Prossorの叛乱の概要をまとめる。⑤リンカーンについての論考を仕上げる。⑥本件プロジェクトを包括し、不足点を精査した上で、新たなプロジェクトへとつなげる。 海外での研究発表や活動は、新型コロナウィルスの拡散により困難が予想されるので、本年度については、口頭発表よりも、地道な文字化作業を優先する。
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Causes of Carryover |
海外学会研究発表の出張が、シーズンオフの2月で、しかも今回はリサーチと交流を開催地(テキサス)を移動せずに行なえた。また、たまたま当年度の物品購入に、パソコン等の比較的高額な経費がかかるものが含まれなかったため、結果的に、総額費用が安く済んだ。これらの差額分は、最終年度の研究活動および執筆に充当する。
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