2017 Fiscal Year Research-status Report
『緋文字』におけるJohn Henry Newmanのかげ
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16K02518
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
入子 文子 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (80151695)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Hawthorne / John Henry Newman / The Scarlet Letter / Dimmsdale / The Great Stone Face |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はHawthorne がJohn Henry Newmanに関心を寄せ、『緋文字』(1850)のディムズデイル牧師 の人物造形にインスピレーションを与えたとの仮説をたててきた。両者の親密性、ましてアメリカ・ピューリタンの土壌に育ったホーソーンと、イギリス英国国教会の申し子ともいえるニューマンとの関係性を論じるこの種の試みは、申請者の見る限り英米ともに行われてはいない。この研究を公開した第一弾は、2015年度日本英文学会全国大会招待発表「Dimmesdaleを読み直す―The Scarle Letter 第12章を中心に」(2015年5月23日 於立正大学)、及び『2015年度日本英文学会全国大会Proceedings』である。ニューマンとともにオクスフォード運動を推進したDr. Puseyと作家との邂逅を記したEnglish Notebooksの記事に、ホーソーンのニューマンへの特別の関心を読み取った。ホーソーンのこの記録は『緋文字』出版後のものだが、ホーソーンが『緋文字』出版前にすでにニューマンに興味を抱いていたことを、当時の出版物から証拠立てた。 この延長線上に、2016年度日本ホーソーン協会関西支部における研究発表「Dimmesdaleの隠されたモデル」(2016年12月24日、於関西学院大学梅田キャンパス)、及び慶応義塾大学特別講演「ホーソーン『緋文字』研究の新展開―バーコヴィッチを超えて」(2017年1月17日三田キャンパス)、さらに関西シェイクスピア研究会での「The Scarlet Letterにおける残された謎」(2017年12月10日 於関西学院大学梅田キャンパス)が来る。 ホーソーンがニューマンを読んでいた痕跡は「説教から短編へ―"The Great Stone Face"をめぐって」『ホーソーン研究』第5号 1-11(14000字)にて論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『緋文字』のディムズデイル牧師はピューリタン牧師なのに、なぜオクスフォード出の若き天才と設定されているのか。当時のニューイングランドのピューリタンはケンブリッジ出と相場が決まっているからである。しかし、先行研究は17世紀の歴史上の人物にそのモデルを見出すことはできない。そこで申請者はこの牧師の人物造形にインスピレーションを与えた人物をJ.H.ニューマンと想定した。19世紀オクスフォード運動を牽引したニューマンが、多くの聖職者や学生を引き付け、満員御礼となった当時の国教会での説教の様子を、M.アーノルドほかの記述と、作中の牧師の説教の様子とを比較し、両者の類似性を提示するところから始めた。 ところが、例によってニューマンの名前は『緋文字』はおろか、ホーソーンの作品には出てこない。しかし、ともにオクスフォード運動を牽引したピュージー博士への複雑な言及の仕方から、ニューマンの影を確実に把握できることを論じ、両者の親密な関係を順次、深く追求していった。そして2018年には『緋文字』と同年発行した短編「偉大な石の顔」がニューマンの説教「聖人」からインスピレーションを得ていることを、インターテクスチュアルな分析から結論付け、「Hawthorneと John Henry Newman―"The Great Stone Face"をめぐって」『ホーソーン研究』第5号に掲載した。
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Strategy for Future Research Activity |
ニューマンは1845年についにローマ・カトリックに改宗した。国教会が初期キリスト教の伝統の継承者であることを立証しようとして、古代以来のキリスト教の伝統を追求するうちに、ローマ・カトリックこそが真のキリスト教の継承者であり、国教会が実は異端なのではないかとの結論にいたったからだ。彼の改宗はイギリスはもちろんアメリカのキリスト教にも多大な影響を与えた。以後アメリカではローマ・カトリックの勢力が増す。ホーソーンの身の回りでも友人はもちろん家族もカトリックへの改宗が起こる。しかし批評家の間ではホーソーンの立ち位置は最後まではっきりしていない。 申請者は今後、ニューマンに限らず、さらに広い視野に立ってホーソーンのキリスト教における立ち位置を考察する。その際、<ロマンス>というジャンルを利用したホーソーンの企てにも触れてみたい。
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Causes of Carryover |
昨年度は体調不良のため、予定した外国出張を執行できなかった。 今年度は5月にローマへの外国出張が決定しており、国内出張も予定している。
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Research Products
(3 results)