2018 Fiscal Year Research-status Report
フィッツジェラルド文学から読み解く人種と結婚のポリティクス
Project/Area Number |
16K02521
|
Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
高橋 美知子 福岡大学, 人文学部, 准教授 (90389388)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | スコット・フィッツジェラルド / ゼルダ・フィッツジェラルド / 婚姻制度 / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、29年度に引き続きゼルダ・フィッツジェラルドを対象とした研究を行ないながら、スコット・フィッツジェラルドの作品研究にも取り組んだ。具体的な成果としては、これまで研究の空白となってきたゼルダの短編小説に関する論考「ゼルダ・フィッツジェラルドの決定不可能なテクスト」が藤野功一編『アメリカン・モダニズムと大衆文学―時代の欲望/表象をとらえた作家たち」(金星堂)に収録され、平成31年3月に刊行された。 スコットに関する研究成果としては、10月に行われた日本英文学会九州支部大会のシンポジウム「反都市化から読み解くアメリカ文学」において、「ウィルソン夫妻と灰の谷」の題名で口頭発表を行った。これは、_The Great Gatsby_が論じられる際に周縁化されがちなジョージとマートルのウィルソン夫妻に注目したもので、1920年代に本格化した郊外化現象背景に、都市/郊外の二極化の歪を表す場所である「灰の谷」、およびその住人であるウィルソン夫妻の描写を精査することで、都市が抱える問題から逃れようとした中流以上の層の試みの限界が早くも浮かび上がることを指摘した。原稿作成時には、平成29年9月に福岡アメリカ小説研究会で発表した同名の原稿を大幅に改定した。現在、このシンポジウムに登壇した江頭理江氏(福岡教育大学)、早瀬博範氏(佐賀大学)、上西哲雄氏(東京工業大学名誉教授)と共に、シンポジウムを発展させた形で共著を出版するプロジェクトが進行中である。 この他、ゼルダの複数の短編における結婚と仕事の表象を論じる論文を現在執筆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画になかったゼルダ・フィッツジェラルドの作品研究を射程に入れたことにより、申請時の構想とはやや異なった形で研究を進めることとなっている。しかしスコット・フィッツジェラルド作品における結婚制度表象について研究を進める上で、ゼルダの存在は非常に重要であり、スコットの妻であると同時に作家であった彼女に関する研究の空白を埋めていくことは、フィッツジェラルド作品を通して婚姻制度と人種をめぐる当時の社会・歴史的状況を探る、という研究目的に必ず寄与すると考えている。執筆中のゼルダ・フィッツジェラルドの短編小説に関する論文が、先行学術研究の少なさもあり難航しているが、平成31年度の早い時期に完成させ、ゼルダに関する研究で得た知識を取り込みながら、スコットの作品研究をさらに進めていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、スコットとゼルダの作品研究を進めながら、両者の作品に表象される婚姻制度と人種をめぐる当時の社会・歴史的状況を探っていく。具体的には、現在7割まで進んでいるゼルダの短編論を平成31年度早期に完成させ、夏から秋にかけてはスコットの_The Great Gatsby_論を共著出版に向けて完成させる。その後は両者の日記や手紙の分析を進めながら、これまでの研究成果を総括する論文を完成させたい。
|
Causes of Carryover |
2018年度は、前年度までに収集した資料を使い、論文や口頭発表原稿の執筆に多くの時間を割いた。また、校務や家庭との兼ね合いで、予定していた出張に行くことができなかったため、2018年度に使用できなかった分の研究費を、次年度に使用することとした。本年度、新しい論文執筆に必要な文献や資料の購入および文献調査、学会発表のための出張費に使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)