2019 Fiscal Year Annual Research Report
Andre Malraux and French collective memory
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16K02524
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
竹内 修一 北海道大学, 文学研究院, 教授 (40345244)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アンドレ・マルロー / ジャン・ムーラン / 集合的記憶 / フランス国民 / コメモラシオン / 記念 |
Outline of Annual Research Achievements |
1964年12月19日にドゴール大統領は、フランスの偉人廟パンテオンに対独レジスタンスのリーダーであるジャンムーランの遺灰を入れた。この日のセレモニーのさいに当時の文化大臣アンドレ・マルローが行ったムーランの追悼演説は、戦時中フランス人は誰もがドイツに抵抗して祖国に勝利をもたらしたのだという所謂レジスタンス神話の生成に大きく寄与した。研究代表者は、この演説自体の分析に関してすでに2018年7月に論文を発表し、一般のフランス人にはさほど知られていなかったムーランをどのようにマルローが救国の英雄に仕立て上げるのか、そのメカニズムを明らかにしている。しかしマルローが演説のために作成した草稿群は未見であった。2019年3月に、フランス国立図書館およびアンヴァリッド(廃兵院)内の軍事博物館において、この演説の手稿、およびタイプ原稿を調査する機会を得た。最終年度は、主としてこれらの草稿群の分析を行い、いくつかの新たな発見があった。すなわち、手稿の段階からタイプ原稿に至るまでに、演説の構成上の大きな変化、および暗黙のうちに聖書を参照をする箇所が増えていることが確認できたのである。演説後半部で、いきなり命令法「見よ」を用いて、聴衆に戦時下のレジスタンスの「蜂起」を追体験させる箇所は、キリスト教の「復活」のイメージに重ね合わせられているが、この箇所は、最初の手稿には存在せず、タイプ原稿ではじめてあらわれることが明らかになった。また「ユダヤ人の王」として処刑されたキリストに重ねられるムーランの呼称「哀れな王」、「天使」を思わせる「パラシュート」、「地獄」を想起させる「地下室」等も手稿には存在せず、タイプ原稿ではじめてあらわれること確認された。こうした研究成果は、11月に近畿大学で開催された日本フランス語フランス文学会秋期大会において発表した。
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Research Products
(2 results)