2016 Fiscal Year Research-status Report
啓蒙ヨーロッパ文学にみる非ヨーロッパの衝撃――ドイツとイギリスを中心にして
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16K02525
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 研一 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80170744)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 緑 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10219024)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ユダヤ人 / 啓蒙 / 非ヨーロッパ / レッシング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず、ドイツ啓蒙を牽引するヘルダー著『人類歴史哲学考』(1784-91)と『人間性促進のための書簡』(1793-97)にみられる非ヨーロッパ像を考察し、ヨーロッパ中心主義に対する姿勢を見極めた。そのうえで、ヨーロッパの中の非ヨーロッパという観点に立って、若きレッシング作喜劇『ユダヤ人』(1749作、1754刊)に描かれるユダヤ人像に関連する基礎文献の調査を行った。すなわち、オーストリア国立図書館では、十八世紀ドイツにおける「ユダヤ人もの」の戯曲の発掘に努め、また当代ドイツにおけるユダヤ人差別問題に関する文献調査も実施した。さらに、ライプツィヒ大学図書館では、レッシングの郷里ザクセン地方における当代ユダヤ人の日常的社会状況について、ライプツィヒ市立歴史図書館では、近世から近代に至る反ユダヤ主義的状況について調査を進めた。これを通して、『ユダヤ人』の置かれた文学的土壌および社会的現実に関する知見を積み重ね、当喜劇を考察する基盤を固めることできた。それを踏まえながら、当代ドイツにおけるユダヤ人差別の制度化やキリスト教イデオロギーも見定めて、従来の滑稽な守銭奴のユダヤ人像とは一線を画す、当喜劇の高邁な主人公が産まれる思想的・社会的背景に分析を施して、『ユダヤ人』論考をまとめるに至った。 また、スコット作歴史小説『アイヴァンホー』(1819)について、十八世紀イギリスは、東欧等からユダヤ人移住者が激増し、ユダヤ人差別は制度上緩和されていた点を念頭に置きながら、目下、主人公の恋人の高潔なユダヤ人娘やその父の卑屈な吝嗇漢に分析を加えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度末に迎えた定年退職という環境変化に伴って、予定していたエフォート率が多少低下せざるをえなかったものの、文献調査や論考の結実として、所期の論文執筆まで漕ぎつけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、フォルスター著『世界周航記』(1777)が、いかに複数座標軸に立ってヨーロッパ文明に対する非ヨーロッパ像を描くのかを見定める。ついで、レンツの喜劇『新メノーツァあるいはクンバ国王子タンディの物語』(1774)の主人公であるインド人像、およびその批判の対象となるドイツ啓蒙の描かれ方の特徴を抽出する。当喜劇は、デンマークのポントピダンの小説『メノーツァ。むなしくキリスト教徒を捜し求め、世界を遍歴したアジアの王子』(独訳1743)――若きレッシングも書評で高く評価したが――に拠って、「高貴なる野蛮人」のインド人が、ヨーロッパを訪問して、文明社会を批判するモチーフを受け継ぐ。だが、レンツの「野蛮人」は、多義性に富み、きわめて独自な形象に改鋳されている、と考えられる。 夏季休暇には、オーストリア国立図書館にて、ドイツにおけるインド人を主題に据える古典作品の博捜に努める。また、当主題の絵画等についても、当地の美術歴史博物館等にて綿密な調査を実施する。しかも、海外研究協力者であるフランクフルト大学のヒルメス教授と、ヨーロッパと非ヨーロッパの双方的関係に関して、意見交換を行う。そのうえで、ドイツの古典作品に描かれる多様なインド人像の特質を、『新メノーツァ』の主人公とも比較検討しながら、浮き彫りにしたい。 また、前掲ポントピダン同様、『ペルシア人の手紙』(1721)を手本にしたハミルトンの書簡体小説『ヒンドゥー・ラージャーの書簡』(1796)を素材にして、いかにインド人が旅先のヨーロッパの風俗習慣を描き出すのか、また、植民地主義に対していかなる姿勢を示すのか、読み解く。
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Causes of Carryover |
理由のひとつは、購入予定であった古書のドイツ語著作のシリーズがどうしても手に入らなかったことであり、もうひとつは、本年度末、定年退職という慌ただしい環境に伴って、発注予定のコンピューターの購入を次年度に延期せざるをえなかったことである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、ドイツ語古書のシリーズは、インターネットのみならず、海外出張の折に古書店も精力的に回って手に入れる予定である。また、コンピューターは、初夏に購入の予定である。
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Research Products
(5 results)