2017 Fiscal Year Research-status Report
啓蒙ヨーロッパ文学にみる非ヨーロッパの衝撃――ドイツとイギリスを中心にして
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16K02525
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 研一 東北大学, 国際文化研究科, 名誉教授 (80170744)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 緑 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10219024)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 啓蒙 / 敬虔主義 / 高貴な野蛮人 / 非ヨーロッパ / ヨーロッパ中心主義 / 「ペルシア人の手紙」 / 文明批判 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、レンツ作喜劇『新メノーツァ』(1774)にみるインド人像や当代ドイツの描写に考察を加えたうえで、夏期休暇はオーストリア国立図書館やライプツィヒ大学図書館にて調査に臨んだ。その結果、十八世紀イギリスでは東西インドを主題とする多くの戯曲・小説が出版された一方、当代ドイツではコッツェブー作『ロンドンのインド人』(1790)以外は確認できず、『新メノーツァ』の特異性が浮き彫りになった。さらに、海外研究協力者フランクフルト大学ヒルメス教授との討議を通して、「デンマーク・ハレ・ミッション」に関する知見を得た。すなわち、デンマーク王フリードリヒ4世が、敬虔主義の牙城ハレ大学の協力の下、1706年から自国領南インド・トランケバールにて宣教活動を開始したという事実である。そこで、レンツの父親も露領リヴォニア先住民のため敬虔主義的実践教育に心血を注いだ点も念頭に置いて、オーストリア国立図書館にて「デンマーク・ハレ・ミッション」関係の文献調査を行い、ベルゲン地区監督ポントピダンに行き着いた。正統主義批判の論陣を張った敬虔主義者、書簡体小説『アジアの王子メノーツァ』(1742/43)の著者その人である。通説では、これは正統主義の「護教書」と断じられ、書簡体小説『ペルシア人の手紙』(1721)のモチーフ以外、『新メノーツァ』への影響は認められていない。しかし、上記の事実を考慮すれば、通説は再検討されねばなるまい。そこで、秋以降、当書を読解しつつ考察を進めている。『新メノーツァ』のインド人像が新たに照射できるはずである。また、同じく『ペルシア人の手紙』を手本とするハミルトン作書簡体小説『ヒンドゥー・ラージャーの書簡』(1796)を素材に、インド人によるイギリス風俗習慣の描写や、植民地主義に対する姿勢に分析を加えている。それと同時に、当時ロンドンに滞在したラ―ジャーの動静とその評判も検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
夏期休暇中のオーストリア国立図書館やライプツィヒ大学図書館における文献調査、および海外研究協力者フランクフルト大学の比較文学研究者ヒルメス教授との討議が、とりわけ有益であったため、本研究は、これまでおおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究実績を基礎にして、ヘルダー『人間性促進のための書簡』(1793-97)所収の五篇連作詩「黒人牧歌」に考察の的を絞り、黒人奴隷像、および植民地制度に対するヘルダーの姿勢を読み解く。ついで、その素材とみなせるロンドン刊行の二作品、すなわち、クレーヴクール(1735-1813)作『アメリカ農夫の書簡』(1782)やステッドマン(1744-97)作『スリナムの黒人反乱』(1796)とも比較考定を施して、ヘルダーのヨーロッパ中心主義に対する両義的身構えの実相を解き明かす。また、この二年間の考察を踏まえて、「ユダヤ人もの」や「インド人もの」や「黒人奴隷もの」を各々、政治的差別制度、あるいは植民地制度の文脈のなかで、対比的に論究する予定である。 さらに、インド人表象も射程に入れながら、アフリカ黒人を主役に据える最初の作品、アフラ・ベイン作『オルーノコ』(1688)の黒人王子の系譜を、アラブ人も含めながら辿る。当作品は、1695年の戯曲化後、十八世紀を通じて人気を博し、主人公は古典的黒人像として、ドイツの「黒人奴隷もの」の原型を提供するからである。その際、啓蒙の奴隷制廃止運動を背景にして読み解くことになる。
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Causes of Carryover |
(理由)理由の一つは、18世紀インド関係のドイツ語および英語書籍をウィーンの近世・近代の人文系を専門とする古書店に注文していたものの、経営破綻して、手に入らなくなったこと。もう一つは、研究分担者が春期休暇中に予定していた大英図書館に於ける文献調査を延期せざるを得なかったこと。これは、短期間で実施せねばならない調査を有益かつ稔りあるものにするためには、日本での準備により時間をかける必要がある、と判断したことによる。 (使用計画)オーストリア国立図書館やライプツィヒ大学図書館で、18世紀における「黒人奴隷もの」の文献調査に従事する。また、海外研究協力者フランクフルト大学ヒルメス教授と、比較文学の観点から「黒人奴隷もの」文学に関して討議・意見交換をする。 それと同時に、大英図書館にて「インド人もの」や「黒人奴隷もの」の古典作品について文献調査を行うとともに、ナショナル・ギャラリー等ではインド人や黒人に関する絵画も調査する予定である。
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Research Products
(2 results)