2017 Fiscal Year Research-status Report
18世紀フランス文学における「専制批判」の系譜:モンテスキューとディドロを中心に
Project/Area Number |
16K02526
|
Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
田口 卓臣 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (60515881)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 専制批判 / 近代的統治 / フィクション / 公衆概念 / 摂政時代 / ルイ14世時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
モンテスキューの書簡体小説『ペルシア人の手紙』(1721年)の翻訳作業に関して着実な進捗を実現することができた。既に作品全体の翻訳の下書き原稿が完成しており、現在、最終稿の完成に向けて、最後の修正・加筆・注釈の作業を行なっている。このまま進めることができれば、当初の予定通り、2018年度内の単行本の刊行が実現されるはずである。 また、『ペルシア人の手紙』の精読作業を通して、一般には「法社会学者」としてのみ規定されてきたモンテスキューが、巧妙かつ緻密な文学的形式を介して、ルイ14世時代とオルレアン公の摂政時代における「専制」とその破綻を描き出している、という本研究の仮説について、2016年度よりもさらに詳細に確認することができた。 モンテスキューはこの小説において、アンシャン・レジーム期の王権による恣意的かつ独裁的な金融政策が、フランス国内の社会基盤を破壊した、という認識を提示している。そこには、「専制」の暴走によって、国家の論理と資本の論理を混交させた「近代的統治」の本性が最も顕著な仕方で表出する、という洞察が見てとれる。さらに、最大の「専制」とは、「専制君主」に一極集中した形の独裁権力ではなく、国家と資本の論理を混交させた統治権力(金融操作、株価操作、独占企業優遇など)の暴走である、という観点も垣間見ることができる。この観点に関しては、2016年度と同様にいまだ具体的な実績を示せていないが、データそのものは確実に蓄積されており、今後、成果を問うていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績として提示できた成果は、2016年度と同様、1つのみである。具体的には、18世紀フランス思想における「序文」の言説戦略とフィクションの有機的関係に関するフランス語の研究論文(2017年8月刊行済)である。第一線の比較文学研究者たちが多数参加する共同研究論文集(フランス語書籍)に成果が掲載されたことで、日本からの国際的な研究発信にも寄与することができた。 また、開始当初に設定した研究課題に関しても、比較的順調に進んでいる。具体的な進展を見ているのは、1)モンテスキュー『ペルシア人の手紙』の全訳(下書き原稿は既に完成。2018年度内刊行予定)、2)ディドロとルソーにおける「公衆」概念の違いに注目し、「公衆」に潜在する統治権力や、その背後に控える「専制」への傾きについて論じた上で、ルソーもディドロも「散歩」の表象を通して、「公衆=権力」への抵抗のあり方を模索していることを跡づけたフランス語の研究論文(原稿は提出済み。フランスのクラシック・ガルニエ社より、研究論集として刊行予定)。3)モンテスキュー作品の翻訳過程で得たデータや知見の蓄積、である。第三の点に関しては、整理のために試行錯誤を繰り返しているが、先行研究には見られないデータも多く蓄積されている。それらのデータに基づいて、2018年度中に研究論文を執筆したいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず何よりも、モンテスキューの『ペルシア人の手紙』の全訳完成を、最優先事項として進めていく。この作品の全訳を無事刊行することができれば、モンテスキューのフィクション作品としては、本邦初の学術的検証に耐える成果となるばかりでなく、広い意味でのフランス文学研究の進展に大きく寄与することができると考えられる。また、作品の翻訳作業の過程で蓄積したデータに基づいて、いくつかの研究論文としてまとめていくことも構想中である。 次に、モンテスキューの『ペルシア人の手紙』との参照関係が色濃い、フェヌロンの代表作『テレマックの冒険』について、2017年度に引き続き、読解作業を積み上げていきたい。この読解作業は元々、2018年度に実施する予定だったものだが、『ペルシア人の手紙』を研究する上での重要度の高さを認識したため、2017年度から早めに開始したものである。 2018年度は、2017年度と同様、上記2つを研究の主軸に据えつつ、これまでに蓄積したデータを整理・腑分けし、研究成果としてまとめたものを徐々に社会に向けて発信していきたい。
|
Research Products
(3 results)