2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02537
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高木 信宏 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (20243868)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 文学作品の受容 / 作家による批評 / スタンダール / オノレ・ド・バルザック / 『パルムの僧院』 / 『ピエレット』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度(平成30年度)は,スタンダールと同時代の仏作家オノレ・ド・バルザックを取り上げ,後者による評論「ベール氏論」(1840年9月)を中心に研究をおこなった。バルザックがスタンダールの『パルムの僧院』(1839年3月)をどのように解釈したのかについては,先行研究において考察がなされてきたが,しかしながら,それらは総じてスタンダールの文学的価値観や美学に依拠してバルザックの解釈を批判的に検討するばかりであり,理解としては一面的なものといわざるをえない。しかも先行研究においては『パルムの僧院』の修正をめぐる両作家の関係についても実証的な検証が不充分であり,交流の実相を正しく捉えきれていないことも,バルザックの見方や批評に対するスタンダール研究者の考察を消極的なものにしているように思われる。 以上の問題点を踏まえて我々はまずスタンダールとバルザックの当時の関係を再考証し,「ベール氏論」以外に後者による前者の受容を検討する資料として,バルザックが『パルムの僧院』の読後ほどなくして執筆した小説『ピエレット』(1840年1月)に着目し,その創作における『パルムの僧院』の読書の影響を考察した。すでにバルザック研究者によって両作品の類似点について興味深い指摘があるものの,執筆の状況や両者の交際の実相に照らしたものではなく,それらの論考は充分に掘り下げられてはいない。我々はフランス学士院が所蔵する『ピエレット』の原稿や校正刷りのほか,メゾン・ド・バルザック所蔵の関連資料にあたり,生成論的な観点からテクストの創作過程の把握を試み,従来にない研究の端緒を得ることができた。 ただし,フランス学士院ではバルザックの草稿などの複製は許可されておらず,20日ほどの滞在期間中にすべての資料を転写できなかったので,バルザックを対象としたこの研究課題については,平成31年度も継続しておこなう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度はバルザックがスタンダールの長編小説『パルムの僧院』をどのように解釈したのかという問題をとりあげ,まず先行研究の批判的な検討をおこなった。従来は前者の評論「ベール氏論」のみを考察の対象にして,その論点をスタンダール的価値観に照らしあわせ,バルザックの無理解を批判するのが常であった。しかしながら,そうした論考の場合,両作家の当時の交際についての実証的な検証は厳密とはいえず,また他に取り上げるべき資料の検討も不充分であったことを,フランスでおこなった資料調査によってまず明らかにした。 さらに,フランス学士院が収蔵するバルザック関連資料のうち,『パルムの僧院』の出版と時期を接する小説『ピエレット』の原稿と校正刷りにあたることにより,『パルムの僧院』の読書がバルザックの創作にどのような影響を及ぼしたのかを具体的に考証することができた。 以上の研究の手順を踏むことにより,「ベール氏論」の解釈に終始してきた先行研究とは大きく異なる観点から,バルザックによるスタンダール文学の解釈のみならず,後者の前者への影響を解き明かす端緒をも見いだせている。 また,前年度にはポール・ヴァレリーによるスタンダールの受容について研究をおこない,その知見の一部を仏語論文にまとめ,フランスの国際的なスタンダール研究誌に投稿したが,拙論が査読を経て同誌上に掲載されたことも,本研究が当初の計画以上に進捗していることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2019年度には,前述したバルザックに関する考証や解釈によってえられた知見を学術論文にまとめて公表することを目指す一方で,20世紀フランス文学の代表的な作家マルセル・プルーストによるスタンダール文学の受容についての研究にも着手する予定である。先行研究に関しては予備的な書誌を作成したうえで,すでに文献や資料の収集を始めているが,それらのなかには日本において入手や閲覧が困難なものがあるため,時間の許す範囲内で渡仏調査をおこなう予定である。フランスにおいて資料の渉猟のために訪問する機関は,パリにあるフランス国立図書館(トルビアック館,リシュリュー館,アルスナル館など)と学士院図書館を予定している。
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