2017 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおけるケルト学の成立とその背景-中世文学の復興という観点から
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16K02539
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
梁川 英俊 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (20210289)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ケルト学 / 形質人類学 / 人種理論 / ケルト人種 / アンリ・ゲドス / ポール・ブロカ / J.C.プリチャード |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず、昨年度までに購入した22巻の『ルヴュ・セルティック』と米国インディアナ大学ブルーミントン校の「アンリ・ゲドス・フォークロア・コレクション」で収集した1000タイトルに及ぶ資料の調査に多くの時間を費やした。調査の結果、ヨーロッパで最初のケルト学の国際雑誌であった『ルヴュ・セルティック』には、当時の代表的なケルト研究者が積極的に寄稿しており、なかでもアンリ・ゲドスが編集長であった時代には、フォークロア研究の面で多くの収穫があったことが確認された。この研究成果の一部は、静岡大学の森野聡子教授との共著論文「黎明期のケルト学」としてまとめ、2017年10月に発行された日本ケルト学会の機関誌『ケルティック・ファーラム』に発表した。 一方、19世紀のケルト学の興隆を支えた背景にも注目し、当時盛んに出版された旅行記や民族誌、さらには形質人類学におけるケルト人種をめぐる議論等の分析にも取り組んだ。なかでもパリ人類学会の中心人物であったポール・ブロカの人種論におけるケルト人種論を追いながら、J.C.プリチャードら同時代のブリテンの学者たちの研究動向にも目を配りつつ比較・検討した。その結果、19世紀における「ケルト」は、〈言語〉と〈人種〉の両方の名称として広く認知された学問的対象であり、ケルト学はこのような知的状況を背景にしてこそ大きく進展し得たことを確認した。この研究成果の一部は、2017年10月に開催された日本ケルト学会研究大会のシンポジウム「フォーラム・オン」において、「ブルトン人種とは何か?」と題した口頭発表としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年の予定通り、今年度は『ルヴュ・セルティック』に関する研究成果の一部を論文としてまとめ、一昨年度から収集している資料の読解に力を入れた。また、その過程で新たな研究対象として浮かび上がった「人種理論」の問題に集中して取り組むため、今年度は申請時に予定されていた海外調査は行わず、その分の費用は人種論関係の書籍の購入に充てることにした。その点も含めて、今年度の研究は昨年度に立てた予定通りに進んでおり、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、昨年度に引き続き資料の読解と分析を行いながら、19世紀のフランスにおけるケルト学の成立過程とその背景を検討するほか、同時代にアメリカからその動きを追っていたラフカディオ・ハーンについて調査し、日本ケルト学会の研究大会で発表を行う予定である。さらに、今年度の研究を通じて、アンリ・ゲドスを継いで『ルヴュ・セルティック』の編集長になったアンリ・ダルボア・ド・ジュバンヴィルが、ラテーヌ文化のブリテン諸島への伝播という現在のケルト学の定説の主唱者であることが確認されたので、彼の著作をさらに調査・研究して、その主張の詳細を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
3月に開催を予定していた研究会が中止になったため、旅費の一部が未使用となったが、その分は次年度に旅費として使用する予定である。
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