2016 Fiscal Year Research-status Report
クローデルの日本論に見られる東洋思想の影響と新トマス主義との関連についての研究
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16K02543
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大出 敦 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (90365461)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ポール・クローデル / 比較文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は、クローデルが読んだと思われる日本及び東洋に関する文献、トマス・アクィナス関係の文献の収集とデータベース化を行った。この結果、クローデルの日本理解は英語、フランス語による日本論に負っている部分が多いことが確認できた。これらのクローデルが参照したと考えられる日本論はアーネスト・サトウの日本論に基づいて記述されているものが多いが、サトウは日本の宗教観・自然観を江戸時代の国学者の平田篤胤の思想をもとに記述している。平田の宗教観の基本は、死ぬと魂はこの世界ではない異界に行くという仏教的なものではなく、目には見えないがこの世界のどこかにある黄泉の国に魂は行くのであり、生者と魂は同じ世界に共存しているというものであった。クローデルがサトウの著作を読んだことは間接的に証明されているが、サトウ以外の著作に接したとしても、クローデルの日本理解には平田篤胤の思想が影響を及ぼしていることが分かった。 このことをもとにクローデルの滞日期の文学活動をトマス主義と日本思想の観点から考察することを行った。クローデルはまずアーネスト・サトウなどの一連の日本論を通して得た平田篤胤の思想から日本人の自然観、宗教観、とりわけ魂観を理解し、その上で、平田を通して構築した日本を『神学大全』を書いたトマス・アクィナスの哲学で読み換え、最終的にはトマス主義的な独特の日本観を形成したといえる。神性が事物に内在するという汎神論的な宗教観の日本型の信仰を神性が超越者・絶対者として事物の外部に存在する一神教的な宗教に矛盾することなく組み込み、理解することにクローデルは成功している。このことを主としてクローデルの日本人論「日本人の魂への眼差し」と日本を舞台にした短い戯曲「女と影」を用いて考察し、その成果として「神々のはざまで――クローデルと日本の神性」として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は主として、研究のための資料の収集とデータベース化が中心であった。そのためトマス・アクィナスの著作や欧米で出版された日本論を収集した。また平田篤胤などクローデルの日本理解に必要だったと思われる著作も収集した。ただし文献は古書が多いため、まだ必要な文献が見つからず、収集が終わった訳ではなく、次年度以降も引き続き文献調査を継続する予定である。一方、資料を用いたクローデルの対話篇の読解であるが、「詩人と三味線」「詩人と香炉」「ジュールあるいは日本のネクタイをした男」の三篇ある対話篇のうち「詩人と香炉」の読解に着手している。以上の作業をもとにして、クローデルの日本に関する探求について考察を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
クローデルの日本論の理解には、平田篤胤などの日本思想、トマス・アクィナスのスコラ哲学の他に、老子・荘子の思想が必要である。2016年度は老荘思想に関しては深く調査、考察はしていないので、2017年度は老荘思想の文献収集等に力を入れる必要がある。また三篇の対話篇のうち、まだ二篇の読解が残っているので、資料の収集と並行して行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
2016年度に購入を考えていた文献が見つからず、購入ができなかったため、次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度に予定していたものの、購入できなかった文献の購入のため、2017年度の図書の購入費用に組み込んで使用する予定である。
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Research Products
(1 results)