2017 Fiscal Year Research-status Report
シュルレアリスムの受容と発信:瀧口修造による共同制作の実践
Project/Area Number |
16K02544
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
笠井 裕之 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (10265944)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朝吹 亮二 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (70159383)
松田 健児 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (70548255)
朝木 由香 神奈川県立近代美術館, 企画課, 学芸員 (50450797)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 仏文学 / 美術史 / シュルレアリスム / 瀧口修造 / 山中散生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の前衛芸術運動の中心的存在であった瀧口修造が、戦前戦後を通じてシュルレアリスムをいかに受容し、かつ発信したかを「共同性」の観点から検証する試みである。戦時下の思想統制の激化とともに日本のシュルレアリスムは途絶したとの見方がある。本研究メンバーは、瀧口が戦前に参画したシュルレアリスム運動と、戦後のジャンルと国境を越える活動、とりわけデュシャン、ミロ、タピエスとの共同制作とを一貫した視座で捉えることにより、瀧口独自のシュルレアリスムの展開を跡づけることが可能と考える。慶應義塾大学アート・センター「瀧口修造アーカイヴ」での書簡、草稿等の調査結果を国内外の他機関所蔵の資料と照合し、瀧口と共作者の双方向から作品の生成過程を解明するとともに、共作現場の詳細を伝える瀧口とデュシャン、ミロ、タピエスらとの往復書簡資料集の刊行を目指す。 本研究においては戦前の日本におけるシュルレアリスム運動の詳細を知ることが不可欠だが、瀧口修造は空襲で資料一切を失ったため、現在閲覧可能な瀧口旧蔵資料はほぼ戦後の資料に限られる。一方、慶應義塾大学日吉図書館「山中散生コレクション」には、瀧口と共に戦前のシュルレアリスムを牽引した山中散生が海外のシュルレアリストから受け取った多数の書簡、草稿、文献等が所蔵されている。本年度はこの「山中散生コレクション」の資料調査に力を尽くし、戦前の日本における前衛芸術運動の実態、特に海外との交流について検証し、それが戦後の瀧口の共同制作の実践へと繋がる可能性を探った。その成果は神奈川県立近代美術館(葉山館)で開催された資料展「1937:モダニズムの分岐点」(2017年9月-11月)及び同展に際して作成された『山中散生書簡資料集』によって発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度のスペインでの調査によって、本研究開始以前に予備調査をおこなった瀧口とミロとの共同作業を証し立てる書簡等に加え、新たに瀧口とタピエス、さらにダリとの交流についても一次資料による検証を広げた。 瀧口とデュシャンとの関係については、前回の科学研究費補助金の助成を受けた研究(基盤研究 [B]「瀧口修造におけるコラボレーションと集団的想像力」2010-2012年度)によってすでに一定の成果がある(「瀧口修造=マルセル・デュシャン書簡資料集」、「瀧口修造とマルセル・デュシャン」展図録、千葉市美術館、2011年)。 本年度は山中散生旧蔵資料によって戦前の日本における前衛芸術運動の海外交流について検証し、それが戦後の瀧口の共同制作の実践へと繋がる可能性を探った。 次年度に本研究の最終的な成果発表として予定する書簡資料集刊行に向けた準備は概ね順調に整いつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究における独自の視点、それは日本のシュルレアリスム運動がヨーロッパのシュルレアリスムの「受容」にとどまらず、国際的な「発信」への契機でもあったことを検証しようとすること、そしてこの運動を推進した瀧口修造の、一見、断絶しているかにみえる戦前と戦後の活動を「シュルレアリスムの実践と展開」の一貫した過程として捉え直そうとすることにある。 次年度は、この二点を引き続き活動の中心軸としつつ、これまでに得た資料の蓄積を本研究のアウトプットにつなげること、すなわち書簡資料集の刊行に努力を集中することになるだろう。研究代表者と研究分担者はすでに資料の選定、翻訳、解説の執筆に着手している。また、関係資料の把握に万全を期すために、引き続き国内外の諸機関で資料調査をおこなうことも予定している。過去の調査で一定の成果を得ていても、本研究の進展に応じて、また先方の機関の分類整理の進展によって、資料の再調査が必要となることが予想されるからである。
|
Causes of Carryover |
(理由) 予定していた資料調査のための国内出張(富山県立近代美術館・瀧口修造コレクション)を先方の事情(美術館の移転等)により次年度に行うこととしたため。また文献資料及び機材の購入は次年度に行っても研究の遂行に支障がないと判断したため。 (使用計画) 上記の通り、資料調査のための国内出張(富山県立近代美術館・瀧口修造コレクション)と文献資料及び機材の購入を計画している。いずれも本研究の成果発表としての書籍刊行に役立てる所存である。
|
Remarks |
松田健児(翻訳), リカル・ブル「バルセロナのジャポニスム」, 『バルセロナ カタルーニャ文化の再生と展開』, 竹林舎, pp. 209-225. 朝木由香(展覧会企画), コレクション展「1937:モダニズムの分岐点」, 2017年9月16日-11月5日, 神奈川県立近代美術館 葉山.
|
Research Products
(16 results)