2017 Fiscal Year Research-status Report
19世紀フランス文学における身体、感覚、病理の表象
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16K02545
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小倉 孝誠 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (60204161)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 身体 / 病理 / エミール・ゾラ / ゴンクール兄弟 / ユイスマンス / リアリズム小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目の本年度は、エミール・ゾラの作品における身体と病理の問題を、同時代の生理学や精神医学との関連において考察した。彼の主著『ルーゴン=マッカール叢書』の準備ノートの批評校訂版の第7巻が刊行され、申請者の研究にとって大いに有益だった。昨年度からの研究成果も採り入れて、2017年7月には『ゾラと近代フランス―歴史から物語へ』(白水社)を刊行した。また、2017年11月にフランスで刊行された Dictionnaire des naturalismes(『自然主義事典』)にも寄稿し、国際的なプロジェクトの一翼をになった。いずれも本科研費による研究成果を示すものである。 また本年は、ゴンクール兄弟、ユイスマンスなどゾラと同時代の他の作家に軸足を移して研究・調査を進めた。どちらの作家も、近年の研究の蓄積を踏まえて新たな校訂版が出ているので、それらを購入し、精読することで考察を深めた。それによって、ゴンクール兄弟のいくつかの小説においては、同時代の医学的な知がゾラの作品以上に深く取りこまれていることが分かってきた。彼らの文学は一般にリアリズム(レアリスム)文学と呼ばれるが、民衆や、身体と病理のテーマをリアリズム文学全体の中に位置づけることで、研究を進展させることができた。その成果を公開研究会「19世紀文学とリアリズム」(2018年2月3日、京都大学)で発表し、その後まとめられた報告書に寄せた原稿にまとめる機会を得た。 2018年3月9日は、朝日カルチャーセンター(新宿)において、「ゾラ―近代を突き抜けた作家」というタイトルで講座を担当して、これまでの研究成果を一般市民に向けて公表することができた。 2018年3月には、フランス国立図書館で文献調査を行ない、主として19世紀末の女性の身体表象をめぐる資料を参照した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『ルーゴン=マッカール叢書』の準備ノート批評校訂版の続巻、ゾラの作品の新たな批評校訂版、さらにゴンクール兄弟やユイスマンスの作品の新たな校訂版が次々に上梓されたので、それらを入手した。また大学の春期休暇を利用して渡仏し、パリ国立図書館で文献調査にあたり、19世紀のまなざしに関するシンポジウムに参加して、研究テーマに関する貴重な知見を得ることで、本研究課題はほぼ順調に進捗したと言える。 とりわけ、ゴンクール兄弟の小説のすぐれた批評校訂版が二種類刊行されていることで、彼らの文学における精神医学やヒステリーの位相に新たな光があてられつつあるという印象を抱いている。 2018年3月には、パリ第三大学で開催されたゾラ・セミナーに参加し、発表聴取と質疑応答をとおして、自然主義研究に関する最新の知見と、リアリズム作家に関連する今後の著作の刊行予定を知ることができた。またその場でアラン・パジェス氏(パリ第三大学名誉教授)、ピエール・デュフィエフ氏(パリ第十大学名誉教授)ら、現在自然主義研究を先導する研究者と意見交換する機会が持てたのは有益だった。
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Strategy for Future Research Activity |
一昨年、昨年の研究成果を踏まえて、平成30年度は19世紀末のデカダン文学における性と精神病理の問題に中心的に取りくむことになるだろう。とりわけ当時を代表する精神医学者ジャン=マルタン・シャルコーと彼のヒステリー研究は、文学や芸術表象にも絶大な影響を及ぼしたとされる。シャルコーの著作を精読し、同時代の作家の作品群をつき合わせることで、文学と精神医学の関係に迫りたい。 申請者が世話人を務めている「自然主義文学研究会」は2018年6月初旬と、同10月下旬、日本フランス語フランス文学会の全国大会を機に、研究集会を催す。6月には、彦江智弘氏(横浜国立大学)が、ゾラとユートピア思想に関する発表をすることになっている。この研究会は、19世紀フランス文学の研究者が日本各地から集う貴重な機会である。 ゾラ、ゴンクール兄弟、ユイスマンスらの著作の批評校訂版、彼らに関する研究書は今年度も引き続いて購入し、読書作業を進めていく。また夏期休暇あるいは春期休暇を活用して、パリの国立図書館で19世紀末の精神医学者たち(シャルコー、ベルネーム、ビネなど)の著作を精査する予定である。 それらの成果にもとづいて、平成30年度中に大学の紀要に論文を寄稿する。また現在準備中の、身体と逸脱をめぐる単行本にその成果を採り入れるつもりである。
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Causes of Carryover |
(理由)2018年3月12-28日に、パリ国立図書館での文献調査、およびパリ第大三学でのゾラ・セミナー参加のため海外出張した。出張時期との関係で、2018年3月の出張経費は、平成30年度の使用額に組み入れることにしたため、次年度使用額が生じた。
(使用計画)上記「理由」欄に記したように、2018年3月のパリ出張により、旅費と宿泊料を使用した。平成30年度は、ゾラ、ゴンクール兄弟、ユイスマンスらの作品の批評校訂版、19世紀後半の精神医学者、心理学者の著作、および精神医学やヒステリー研究に関する文献を収集、購入する。また今年度も、これまでどおりパリ国立図書館での文献調査、パリ第三大学でのゾラ・セミナー参加のため海外出張する予定であり、そのために交付金を充当する。
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Research Products
(5 results)