2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02553
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
橋本 知子 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (60625466)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フランス / レアリスム文学 / ロマン主義文学 / 科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ギュスターヴ・フロベール(1821-1880)を中心とする19世紀フランス写実主義文学における幻視の様相と、その変形である諸現象(語彙場としては、錯覚ILLUSION、夢REVE、幻想FANTAISIE、夢想REVERIEなど)を分析し、そうした夢や想像力の領域にかかわる主題が、現実を克明に描くと考えられている写実主義文学においても反復されているという、その逆説性を考察する。また、写実主義文学の中の幻視がいかに知のディスクールに立脚しているかを検証し、文学作品が科学に影響を受けつつも、どのようにしてそこから離れ、さらにはどのようにして文学独自の作品世界を生みだすに至ったかという問題を問うことで、19世紀の文学言説と科学言説とが培った関係性を明らかにする。 平成29年度は、この問題提起に合致すると思われる文学作品の多様性を提示するため、必ずしも文学史上では写実主義の範疇に入っていない作品をあえて選定し、テクスト分析による詳細な検証を行った。またフランス国立図書館において文献調査を行い、先行研究を参照しつつ、未だ明らかにされていない観点を吟味し、論点の整理を行った。 具体的な成果としては、ロマン主義時代の作家とされるヴィクトール・ユーゴーの『海に働く人々』(1866)における幻視に注目し、ロマン主義時代の旗手とされるこの作家が、写実主義が中心となる1860年代という時代に描いた作品において、どのように文学言説と科学言説とを交錯させているか、またどのように自らの文学観を提示するためのストラテジーとしているか、という点について明からにした。またこの問題について口頭発表を行い、そこでの質疑応答でえた講評、アドヴァイスなどをふまえ、フランス語論文としてまとめ、紀要雑誌に投稿掲載という形で成果発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、ユーゴーの『海に働く人々』(1866)のテクスト分析を通して、幻想が主題となるロマン主義文学と同時代科学との関係を明らかにした。また成果として、フランス語論文を学術雑誌に発表した。 並行して、次年度以降の準備のため、フランス国立図書館にて、同じくロマン主義時代における文学言説と科学言説について文献調査を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は本研究の最終年度にあたるため、作品分析を続行するとともに、今まで行ってきた諸分析の統合を行う予定である。そのために、以下の二点を研究の主軸とする。 まずフロベールを中心とする文学作品における幻視を分析するにあたって、フロベールと「フロベール以前」(具体的にはロマン主義と区分される年代に書かれた作品)比較の対象とし、詳細なテクスト分析を継続させる。主にジョルジュ・サンドにおける神秘主義と同時代科学の影響を検証する予定である。この分野についてはまだ多くは先行研究で明らかにされていないため、文献調査と作品読解に時間がかかると予想される。 また同時に、過年度の研究を総括し、今までの資料調査の結果を活字にまとめてゆく。前年度、前々年度に行った研究発表を加筆・改稿すると同時に、フランス語での新たな論文執筆をも試みる。
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Research Products
(3 results)