2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02557
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大宮 勘一郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40233267)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 政治 / 記憶 / ベンヤミン / ハイデガー / クライスト |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、プロジェクト2年目として、プロジェクトテーマに関わる論文を2本執筆し、1本は刊行された。また、日本独文学会においてシンポジウムを企画、司会及びパネリストとして発表した。これとは別に研究シンポジウムのパネリストとして2つの口頭発表を行った。さらに、学会誌欧文版の責任編集を担い、特集テーマ導入の序論を執筆し、刊行された。 論文は現代イギリスの作家カズオ・イシグロによる、ドイツの都市を架空の舞台とした小説を論じた「『充たされざる者』あるいは終わりなき慰撫」、2015年にドイツの現代史研究において起こった学問スキャンダルを論じた「ドイツ再統一と政治的言説の変容」であり、独文学会シンポジウムは「ハインリッヒ・フォン・クライスト―政治的詩人か政治的なるものの詩人か」、個別発表は「『ペンテジレーア』―政治的なるものと愛」、その他のパネル発表は、国際シンポジウムにおける「Auf der Bruecke wohnen ― ueber Heideggers "Bauen Wohnen Denken" nachdenken(橋上に住まう―ハイデガー『建住考』再考)」および 「ヨーロッパの文学―ドイツの場合」である。学会誌テーマは「Halt, Schritt, Trab, Galopp ― Walter Benjamin weiter, tiefer lesen(静止、常歩、速歩、駈足―ヴァルター・ベンヤミンをより広く、より深く読む)」である。政治(越境と客人歓待)、歴史(伝統と近代)、記憶(回想と抑圧)、恋愛(自由と拘束)と、分野は分かれているが、いずれも「抗争」言説の分析研究を基本とした業績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、「抗争」言説に関して重要な作家・思想家の個別テクストに関する考察がある程度進み、論文として発表しただけではなく、日本語、ドイツ語で口頭発表することで、ドイツ語圏研究者との議論を深めることができたこと。また第二に、イギリス(ロンドン)とドイツ(ベルリン)において、イギリスのEU離脱問題、現在のEUの抱える諸問題、とりわけ難民受け入れ問題に関するそれぞれの国論の分裂を、現地の研究者への取材と論壇・ジャーナリズムの傾向から分析的に考察する作業を進めた。歴史的テクストにおける「抗争」主題のみならず、その現在における新たな形態を探る作業が進んだこと。以上二点の理由により研究遂行は概ね順調と言える。なお、第二の点の成果として再統一後のドイツの言説抗争を扱った論文が印刷中である。
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Strategy for Future Research Activity |
プロジェクト3年目の課題は、言説史研究としてまとめる作業を進めることである。その予備的作業は2016年の「正義」の概念史的論文「配分か交換か」および「白兵戦の倫理」において行っているが、そこで展開された議論を個別の作品テクスト論によって肉付けすることを目指す。最終的には各個別論文を有機的に構成した研究書籍の出版を見込んでいる。また、現代ドイツ社会における「抗争」言説のあり方に関して、日本独文学会春季研究発表会(5月26,27日、早稲田大学)において、社会言語学研究者とともにシンポジウムを開催し、司会及びパネリストを担当する。
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Causes of Carryover |
2018年3月11~16日に日本独文学会主催の、「宗教」をテーマとした文化ゼミナール(毎年開催、於リゾートホテル蓼科)に参加する予定であったが、他の論文作成、シンポジウム準備と日程的に重複し、参加を見送ったため、計上した旅費を消化できなかった。次年に「慣習(Habitus)」をテーマとして開催される文化ゼミナールへの参加を計画している。「慣習」論は、ドイツの18世紀思想を考察する上で重要なテーマであり、争いの調停的機能を担うものとして「抗争」言説の基礎的概念でもある。
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Research Products
(7 results)