2016 Fiscal Year Research-status Report
18世紀イタリア・オペラ台本の女性像に見る社会の変容と作者の創作理念
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16K02560
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
大崎 さやの 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (80646513)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オペラ・セーリア / メタスタージオ / ゴルドーニ / オペラ・ブッファ / グルック / カルツァビージ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、まず国内で入手可能な資料を中心に研究を進め、2本の雑誌論文と1冊の共著、学会発表1回とヴェネツィアでの資料の調査と収集を行った。 論文『オペラ『アルチェステ』をめぐって : ヒロインの人物像を中心に』では、ゴルドーニと同時代に活躍し、グルックと共にオペラ・セーリアの改革を行ったことで知られるカルツァビージが、グルックと共に改革オペラの第2弾として発表したオペラ『アルチェステ』について、そこに表われたヒロイン像、女性像を中心に分析した。そしてオペラ『アルチェステ』が改革オペラとして評価される理由に、従来指摘されてきた音楽や詩作面における新しさだけではなく、アルチェステの人物像の新しさも挙げられることを検証した。共著『キーワードで読む オペラ/音楽劇 研究ハンドブック』では「オペラ・セーリア」と「オペラ・ブッファ」の項を担当し、「オペラ・セーリア」ではメタスタージオ、「オペラ・ブッファ」ではゴルドーニを中心に、それぞれのジャンルの成り立ちやその特徴、歴史について解説した。平成28年6月18日に愛知県立大学で開催された日本18世紀学会全国大会における学会発表「ゴルドーニとオペラ・セーリア -メタスタージオ作品との関係を中心に」では、ゴルドーニがオペラ・セーリアを制作していた時代を焦点に議論を行い、ゴルドーニ作品へのメタスタージオ・オペラの影響を検証した。平成29年2月にはヴェネツィア、Casa di Carlo Goldoniで1週間の資料の調査と収集を行い、ゴルドーニが1734年にヴェネツィア貴族グリマーニの二つの劇場(サン・ジョヴァンニ・グリゾストモ劇場、サン・サムエーレ劇場)の座付き作家となってから、その職を辞す1742年までの間にヴェネツィアで上演されたメタスタージオ台本によるオペラの上演を調査、その際に出版されたリブレットを収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メタスタージオのオペラ・セーリア台本の、ゴルドーニ作品への影響については、学会発表に向けて一定の成果が得られた。ただし、国内で入手可能な資料に頼った発表であったため、上演された内容の語彙レベルでの分析は、やはり当時出版されたリブレットに目を通す必要があった。そのため当初の計画通り、ヴェネツィアでの資料調査を行った。現在調査で収集したリブレットの解読と研究に取り組んでいる。ただし、メタスタージオ・オペラの分析に当初の計画より時間を割いたため、ゼーノ作品の分析については次年度の課題となる。女性像研究の面では、カルツァビージ台本による『アルチェステ』を、過去のエウリピデスの悲劇や、同時代のフランスのデュ・ルレによる台本と比較することで、18世紀イタリア・オペラの台本における女性像の特徴を浮かび上がらせることができた。また、共著の執筆に参加したことで、「オペラ・セーリア」と「オペラ・ブッファ」、両ジャンルの特質をはっきりと捉え直すことができたことも収穫であった。
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Strategy for Future Research Activity |
ヴェネツィアで上演されたメタスタージオのリブレットの解読と同時に、アポストロ・ゼーノのリブレットについても調査を進める。ゼーノのリブレットについては、まず日本で入手可能なものから解読を進め、ゴルドーニがオペラ・セーリアのリブレット作家として活動していた時期にヴェネツィアで上演されたゼーノ作品については、リブレットのスキャン映像を入手し、解読を進める。そのため、29年度もヴェネツィアに出張調査に赴く予定である。ゴルドーニ作品については、そのオペラや喜劇における女性像について、メタスタージオのオペラに登場する女性像と、主にヴェネツィアで上演された作品を中心に、比較検討を進める。以上で得られた成果については、29年度中に学会や研究会等で発表する予定である。また、28年度に日本18世紀学会全国大会で行った学会発表「ゴルドーニとオペラ・セーリア -メタスタージオ作品との関係を中心に」の内容は、ヴェネツィアで入手したメタスタージオのリブレットの解読を進めることで、その語彙の影響関係についても検証を行い、学会誌に投稿する予定である。
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