2018 Fiscal Year Research-status Report
コトバの形而上学-ヘルマン・ブロッホ『ウェルギリウスの死』の文化史的研究-
Project/Area Number |
16K02562
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
桑原 聡 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (10168346)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ヘルマン・ブロッホ / 井筒俊彦 / コトバの形而上学 / 天球の音楽 / プロティノス / ユダヤ神秘主義 / カバラ |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、ブロッホの最後の長編小説『ウェリギリウスの死』を文化史的に解明することを目的とした。この作品は、ドイツ・ロマン派の時代に提起された世界の調和の喪失とその再獲得の問いに、言語論として(「言葉」die Spracheと「コトバ」das Wort使い分けとして)答えようとする、極めて存在論的な小説である。「コトバの形而上学」研究では、この作品を文化史的観点からできる限り具体に即して分析・解釈し、何故ブロッホが「天球の音楽」のモチーフを多用し、「歌人の責任」を問題とするのかを解明しようとした。 「コトバの形而上学」という概念は、存在論の一つの型である。ブロッホがプロティノスの影響を受けていることはよく知られている。プロティノスは存在者の根源に「一者」を想定し、それが「個体化の原理」により「流出」し、現象界が生じると考える。ブロッホはプロティノスの思想を引き継ぎながら、「コトバ」という、言語的性格を強調する概念を敢えて用いている。ここにプロティノスとの違いがある。ブロッホは存在という絶対的無分節者から個別の存在者が分節され生まれ出る過程を「言語」によるものと考えているのである。このような思想にはユダヤ神秘主義思想カバラ』の影響が認められる。カバラとブロッホの思想との関連を精査し、『ウェルギリウスの死』の中心概念である「純粋なコトバ」が存在論概念であることを解明し、また、『ウェルギリウスの死』で存在が「コトバ」として考えられていることから、そのことと、この作品に頻出する「意味」「声」「象徴」という語の関連を明らかにした。 この成果を研究代表者は、2018年8月15日~18日スイス・アスコナで開催されたヘルマン・ブロッホシンポジウムで発表することができた。(詳細は以下のURLを参照。http://iab.dickinson.edu/symposien.htm)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、2018年度末で終了の予定であったが、上に記した2018年8月開催のヘルマン・ブロッホ学会で発表した講演が、Walstein出版社から出版される論文集に掲載が決まった。細部をさらに詰めるために4月はじめにウィーンで資料収集をし、6月はじめオーストリア・インスブルック大学で開催されるヘルマン・ブロッホ学会で、他の研究者と情報交換する予定。
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Strategy for Future Research Activity |
上に記したように、今回の科研費研究の大枠はすでにできている。後は細部を詰めるのみの段階になっており、6月はじめのインスブルック大学での学会で必要な情報は得られると予想している。
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Causes of Carryover |
2018年8月に開催されたヘルマン・ブロッホ学会で研究発表者は招待講演を行った。その講演が、今年度ドイツの出版社Wallstein Verladeで刊行される論文集に収録が決まった。そのため、細部を詰めるためにドイツ語圏への出張が必要となった。2019年にはオーストリアで資料収集し、6月オーストリア・インスブルックで行われるヘルマン・ブロッホ学会において研究者と情報交換をし、論文を完全なものとする予定である。
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