2017 Fiscal Year Research-status Report
〈希望と遺産継承の思想〉―ランダウアーからブロッホに至るアナーキズムの射程
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16K02563
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
吉田 治代 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (70460011)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 独文学 / 思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者の研究は、ブロッホ思想の重要な出発点を第一次世界大戦におけるドイツへの批判に見る。ブロッホは、危機にさらされた近代の理念を破局から救い出すとともに、諸文化の多様性をも承認するという〈包括的な遺産継承〉の思想を打ち出した。正統/政党マルクス主義の枠にとらわれないブロッホの「異端性」は、この初期の思想形成に求められるが、そこにアナーキズムの影響を解明するのが本研究の課題である。これまで、20世紀初頭ドイツのアナーキズムを代表するランダウアーの著作の読解をすすめてきた。しかし昨年度、若きブロッホの黙示録思想に関する論文を執筆する過程で、ブロッホの宗教性という問題に突き当たり、ランダウアーからブロッホに至る途上に、フーゴ・バルの〈キリスト教アナーキズム〉の重要性を認識するに至った。従って今年度は、日本でも殆ど全貌が知られていないバルの著作、さらにそのバックグラウンドをなす、バクーニンおよびメレジコフスキーというロシア・アナーキズムの思想を調査した。夏には、ミュンヘンの国立図書館で上記の調査を行い、また、スイスのブロッホ研究者ベアト・ディーチィ氏にもインタビューを行った。その結果、①無神論的社会主義者バクーニンにおける「教会外的宗教性」、②メレジコフスキーにおける革命と宗教との積極的な結びつき、を解明し、さらに、ロシアのツァーリズムに抗したロシア・アナーキストの思想を戦争国家ドイツへの批判に流用するバルの批判的言説を分析、バルが、プロイセンという「神政国家」を批判し、歴史の中に忘却されてきた異端のキリスト教の記憶を未来への遺産として想起することにより、ヨーロッパとドイツの再生を目指したことを明らかにした。この成果を、2018年3月、「宗教思想研究の基礎概念再考」研究会(於:立教大学)にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は概ね順調に進んでいると言える。フーゴ・バルについては、初期ブロッホに対する影響が想定していた以上に大きいことが、バルの資料分析から明らかとなった。バルについても、まだ一次文献が十分に整備されていないので、引き続き、バルの資料の分析が必要となる。よって必然的に、ランダウアーの(当初想定されていた)重要性は相対化される。これは「ランダウアーからブロッホにつながるアナーキズム」研究という当初の計画の目論見の修正を促すものである。とはいえ、バルの調査は、当初の研究計画からの逸脱ではなく、第一次世界大戦時のブロッホの思想形成状況に、よりリアルな形で肉薄するものとなろう。
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Strategy for Future Research Activity |
三年目も、引き続き、ブロッホ、バル、ランダウアーの一次文献(三人とも、歴史批判版がまだ整備されていない)と最新の二次文献を調査する。また、19世紀の社会主義が掲げた無神論が、20世紀初頭の左派においてどのように受け継がれ、時代の新しい宗教性の高揚によって変容されていくのか調査する必要がある。さらに、ヴァイマル期に入り、ブロッホがマルクス主義に傾倒していくプロセスを、1920年代のテクストを手がかりに、詳細に辿るとともに、ブロッホが同時に、1910年代のアナーキストたち(彼らは徹底して反マルクス主義者であった)から受けた刺激を忘れることなく、むしろその立場に立ってマルクス主義そのものを読み替えていくプロセスを解明する。 その成果を、10月に参加することが決まっているチュービンゲン大学での国際シンポジウムにて発表する。さらに、11月には、スイスのブロッホ研究者ベアト・ディーチィ氏を日本に招待し、東京と新潟で講演会を開催する予定である。ブロッホのチュービンゲン時代の最後の弟子であった氏と議論することにより、ブロッホの「遺産」に関わる思想についてさらに理解を深め、本研究に一定のまとめをつけられると考える。
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Causes of Carryover |
最終年度に、当初予定のなかったドイツ出張(国際シンポジウム参加のため)を行い、またスイスからゲストを招聘することに決まったため、予定より出費がかさむことから、今年度の後半、東京出張などを本経費から出さなかったため。
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Research Products
(2 results)