2017 Fiscal Year Research-status Report
世界システムにおけるロシア的主体形成:新経済批評から見るロシア19世紀後半の文学
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16K02565
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平松 潤奈 金沢大学, 国際基幹教育院, 准教授 (60600814)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ロシア文学 / 貨幣 / 交換経済 / ドストエフスキー |
Outline of Annual Research Achievements |
ドストエフスキーの諸作品に頻出する負債、賭博、貨幣嫌悪といった経済的モチーフの重要性について検討するため、前年度から行っていた小説の読解、先行するドストエフスキー研究の調査などを継続し、その結果をまとめて学会発表を行った。19世紀後半、ロシア社会にも市場経済・資本主義が導入され、経済の金融化が進むが、そうした社会の転換を支えるべき公的経済制度は未熟で、この不備を補完する非公式の負債ネットワークが生まれた。発表では、ドストエフスキー作品において語られる、神への信・不信や地上の贈与交換の引き起こす犯罪や道徳的トラブルなどが、このような市場経済移行期の社会における経済的な超越的制度の脆弱性に深く規定されていることを論じた。 また、ロシア地域における交換経済や貨幣の問題を巨視的な見通しにおいて捉えるため、以下のようなことも行った。 - 貨幣・商品と記念碑との相似性という点からソ連時代のテロルの記憶の問題について口頭発表(「記念碑はユートピアを記憶できるのか―共産主義建築、その過去・未来・ディストピア」於ゲンロンカフェ(他2名と共同発表)、2018年3月など)。 -現代ロシアにおける、市場経済のもとで進むソ連回帰の運動や、テロルの記念碑の欠如について、ロシア論壇の調査や論考の翻訳を行い(アレクサンドル・エトキント「ハードとソフト」『ゲンロン 7』2017年、159-183頁;イリヤ・カリーニン「魚類メランコリー学、あるいは過去への沈潜」『ゲンロン 7』2017年、184-203頁)、共同討議(「歴史をつくりなおす――文化的基盤としてのソ連」(他4名と共著)、『ゲンロン 7』2017年、44-91頁)を行った。 - ソ連時代に、指令経済によって貨幣を通した交換経済が抑圧される状況下で、非公式な贈与経済が発展したという点を、後期ソ連文学の展開と絡めて検討し、論文化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度行ったドストエフスキーに関する考察を具体的な論考のかたちにし、口頭発表できた。ただ、同じ問題関心から行った他の研究の完結を優先したため、ドストエフスキー論については、論文化できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の発表をもとにしてドストエフスキー論を論文化したい。また交換経済や貨幣の問題に関して、引きつづき、ロシア地域のより長期にわたる歴史的展開というパースペクティヴを意識しつつ、他の対象に研究範囲を広げていきたい。
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Causes of Carryover |
複数の研究発表の準備(論文や原稿の執筆、翻訳等)に時間を割く必要が出たことから、予定していた海外での資料収集ができなかった。そのため、当該年度の実支出額が使用予定額に満たなかった。生じた残額は、次年度分の助成金と合わせ、図書館での文献調査や学会参加のための旅費、文献購入費に使用する予定である。
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