2018 Fiscal Year Research-status Report
世界システムにおけるロシア的主体形成:新経済批評から見るロシア19世紀後半の文学
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16K02565
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平松 潤奈 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (60600814)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ロシア文学 / 新経済批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドストエフスキーの小説における貨幣の問題について、文化理論的観点から考察を進め、経済、道徳、芸術などの諸領域が互いにどのように結びついているかを明らかにした。前年度に行ったドストエフスキー作品における負債や貨幣嫌悪についての議論に対して、まず、「感情」という観点から再考した。一般的に、貨幣の導入によって人間どうしのコミュニケーションは脱人格化、脱情動化すると言われているが、ドストエフスキーの作品においては、貨幣が情動化を促進する。この問題について、世界システムにおける周縁地域で貨幣や市場経済が導入される際に、社会の経済的負債化が生じると同時に、他者に対する道徳的負債が発生して人格の問題が前景化し、感情が強化されるという過程を検討した。さらに、この人格的・道徳的負債という問題系が、ドストエフスキーの小説テクストにおける「対話性」(バフチン)という特徴をもたらしていることを論じた。これらの研究結果をまとめ、 “Debt, Dialogue, and Emotion: Aspects of “Exchange” in Dostoevsky’s Works” というタイトルで学会発表を行った。学会では、国内・海外のドストエフスキーやバフチンの研究者と意見交換をし、経済的観点からの最新の研究に関する情報提供を多く受けた。また、海外の他の研究者らとともに、次年度開催のドストエフスキーに関するパネル発表の計画を立て、後発的に市場化する社会における信仰や時間意識の不安定性という視点から作家を論じることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者の母親の体調が悪化し、研究代表者は長期休暇期間中に帰省して介護をすることとなり、研究時間が十分取れなくなった。また研究代表者は、所属する金沢大学国際基幹教育院において2018年度に新設された総合教育部で、一括入試による新 入生のクラス担任に指名され、新教科の担当、学生の進路指導、不登校学生の指導などの業務に多くの時間がとられ、授業期間には全く研究時間がとれなり、一時期は体調も崩した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に論文化できなかったドストエフスキー論を論文化し、さらに対象とする作家を広げ、交換経済や貨幣という観点から、総合的に19世紀後半の社会と文化を把握する。特に貨幣システムに対する「信用」と神への「信仰」という、経済と宗教の領域の問題を、対比させつつ考察する予定である。
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Causes of Carryover |
研究代表者の母親の体調が悪化し、研究代表者は長期休暇期間中に帰省して介護をする必要が生じた。また研究代表者は、所属期間において課された教育業務に多くの時間がとられ、授業期間には全く研究時間がとれなり、一時期は体調も崩した。これにより、2018年度は資料調査や研究発表が十分できず、次年度使用額が生じた。 2019年度は、資料調査や研究発表に研究費を使用する予定である。
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