2019 Fiscal Year Annual Research Report
The Formation of Russian Subjectivity in the World-system: Late 19th Century Russian Literature in the Light of New Economic Criticism
Project/Area Number |
16K02565
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平松 潤奈 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (60600814)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ロシア文学 / 新経済批評 / 近代世界システム |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀半ばのロシアの大改革が目指したのは、共同体に対して超越的な位置にある準拠点(神や専制君主や領主)への人格的信頼に基づく社会から、社会自体の内部で生み出される非人格的なシステムへの信頼に準拠する近代的・再帰的社会への部分的移行である(N.ルーマンのいうところの、自己準拠社会システムの形成)。本研究最終年度は、そうした非人格的で近代的な信用制度としての貨幣制度が、19世紀後半のロシアでどのような状況にあり、それがドストエフスキー作品における貨幣や信仰の問題とどのような関係をもっているかを検討した。特に、当時のロシア政府の貨幣政策の破綻、その欠陥を補うように発展した、隣人・家族内の人格的信頼関係にもとづく負債関係、さらに、そうした人格的信頼関係の不安性によって呼び込まれる、神や専制という人格的・超越的な準拠点の再導入などの諸点を、ドストエフスキーの作品テクストに即して考察した。このように本研究は、一般にロシアの「後進性」と捉えられている父権的・人格的な社会関係が、社会の近代化のなかで再構築されていくものであることを明らかにした。この研究に関連し、海外の研究者と学会パネルを組織して、発表(“Unstable Trust: Dostoevsky’s Works in an Age of Economic Transition”)を行った。 また、近代世界システムの周縁に位置し、原料輸出国の役割を担うことになったロシア・ソ連の歴史を貫く「自己国植民地化」の過程(具体的には農奴制や強制収容所の拡大)と、ロシア文化の関係を考察し、これに関し、二つの書籍(『ロシア文化事典』『ロシア文化 55のキーワード』)で項目を執筆した。
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