2016 Fiscal Year Research-status Report
19世紀のさまざまなニーベルンゲン作品と「ドイツ的なもの」の成立―正統性と虚構性
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16K02566
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥田 敏広 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60194495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
Trauden Dieter 京都大学, 人間・環境学研究科, 外国人教師 (20535273)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フリードリヒ・ドゥ・ラ・モッテ・フ ケー / ニーベルンゲン伝説 / 北方の英雄 |
Outline of Annual Research Achievements |
二―ベルンゲ伝承が、19世紀のドイツ語圏文学(芸術)に大きな影響を与え、数多くの作品の素材となったその需要の具体的な様相と、その際に「ドイツ的なもの」が果たした役割を明らかにすることを目指す本研究において、今年度は、近代における「最初」のニーベルンゲン作品であるフリードリヒ・ドゥ・ラ・モッテ・フケーの長編三部作『北方の英雄』(第一部『大蛇殺しのジーグルト』1808 年、第 二部『ジーグルトの復讐』1810 年、第三部『アスラウガ』1810 年)を取り上げ、考察した。 貴族であり軍人でもあったフケーは、台頭する近代の凡俗で陳腐な社会に反発して中世を賛美する貴族主義的思想の持ち主であり、それは確かに「英雄ジグルト」を描く上記作品にも確認することができる。それは、フケーがそもそも、分担研究者であるトラウデンも明らかにしたように、「忠誠」や「一途な愛」という要素の希薄な中世叙事詩『ニーベルンゲンの歌』ではなく、伝承の北方バージョンに基本的には従っているという事実からも窺える。 しかしながら、一方においてフケーの描く「英雄」には、排他的で国粋主義的な要素は希薄であり、夢と魔法の支配する神秘主義的な要素が色濃く出ている。それは、反時代的、ないし超時代的な要素であり、そういう意味で、そこに「ドイツ的なもの」が感じられるとしたら、その「ドイツ的なもの」とは、復古的なものではなく、超現実的で創造的なものである。それ故に、それはまた、19世紀を通じて強くなり、後のナチズムへと繋がるようなナショナリズムとは一線をを画すものだと言わねばならない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究分担者であるトラウデンとは、ほぼ毎月一回研究会を開き、お互いの成果を説明し議論しあうことによって、19世紀において最初の」ニーベルンゲン伝承を素材とする作品であるフケーの長編三部作『北方の英雄』を、「ドイツ的なもの」という視点から分析することができた。すなわち、一口にニーベルンゲン伝承と言っても、時代や地域により大きな違いがあり、フケーにおいてその中のどの要素が利用されたのかが、この共同検討作業から明らかにすることができ、それが『北方の英雄』という作品の性格と特徴を分析するうえで効果的な役割を果たすことになった。 19世紀におけるニーベルンゲン伝承を素材とする作品は、フケーの長編三部作『北方の英雄』以外にも数多く存在するが、それは近代におけるその種の「最初」の作品であり、またそれらの中で何と言っても非常に重要なワーグナーの作品とも関係しているという点で、それを取り上げて考察した本年度の研究は、本研究全体の中で重要な意味を持つ研究であったということができる。 そういう中で、フケー作品とワーグナー作品の関係を結論的に言うなら、一面において、従来考えられてきた以上に両者には深い繋がりがあることを具体的に実証でき、ワーグナーに偏りがちなニーベルンゲン伝承の受容研究に一石を投じることができたと考えている。他方で両者には大きな相違が存在することも明らかにでき、しかもそれは何らかの優劣の付けられる相違ではないという点でも、フケー作品の重要性を物語る成果が出せたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
近代ニーベルンゲン作品において、時代の社会的・政治的状況、および時代の思想・芸術潮流の三者の相互影響関係を「ドイツ的なもの」に注目しながら分析する部分を研究統括者の奥田が担当し、近代ニーベルンゲン作品において中世の ニーベルンゲン伝説の「何が受け継がれ」、「何が抹殺され」たのか、そして「何が 付け加えられた」のかを分析する部分を研究分担者のトラウデンが担当する、という今年度の方法を踏襲しながら研究を進めていく。 その中で、29年度は特に、19世紀を代表する劇作家として評価の高いフリードリヒ・ヘッベルの最後の作品となった『ニーベルング族』を中心に考察を続けていきたいと考えている。その際、ヘッベルは上記作品について、28年度に考察したフケーとは違い、中世叙事詩である『ニーベルンゲンの歌』に大きく依拠し、それを近代において「翻訳」しただけだと述べているが、ヘッベルは一方で近代市民社会を分析した芸術家として評価されることが多い。この矛盾する解説のどちらがより真実に近いのか、ひとつはこの点に焦点を当てて検討する予定である。 もうひとつ留意したい点は、上記作品に限らず、ヘッベル作品においては後のニーチェの「超人」を彷彿させる要素が顕著に見られる。それがニーベルンゲン伝承の伝統的な「英雄」像と如何なる関係にあり、どのような相互作用が存在するのか、この点にも注意しながら考察を続けていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
フケー作品の分析に集中した結果、古代から中世にいたるさまざまなニーベルンゲン伝承の批判的考察がやや手薄になった。伝承の批判的考察はもともと本研究の全期間にわたって行う予定なので、次年度は今年度分を取り返すべく、そちらにも力を入れていきたい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述したように、次年度は今年度やや手薄になったニーベルンゲン伝承の批判的考察にも力を入れて研究を進める。その結果として中世関係の資料蒐集が当初の計画より少し多めになり、そのための出費も増える予定である。
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Research Products
(3 results)