2019 Fiscal Year Annual Research Report
Veriable Nibelungen-Works in the Nineteenth Century und German Character -
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16K02566
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥田 敏広 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60194495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
Trauden Dieter 京都大学, 人間・環境学研究科, 外国人教師 (20535273)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | エマヌエル・ガイベル / バイエルン王 / プロイセン王 / ニーベルンゲン / ブルンヒルト / 中世伝説 / 近代市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀のさまざまなニーベルンゲン作品のひとつとして、エマヌエル・ガイベル・ガイベル(1815‐1884)の『ブルンヒルト』を取り上げ、「ドイツ的なもの」をめぐるその特徴と今日的意義について考察した。 ガイベルの評価はは今ではきわめて低く、古典を単に模倣する独創性のない作家として見なされがちである。しかし私は、そのような低評価が、王侯たちの寵児としてのガイベルの生き方とその政治的発言から来ており、そのような先入観から作品がなおざりにされていて、綿密な考察がなされていないのが原因であると考え、改めてガイベルの代表作である『ブルンヒルト』を詳細に分析し、検討した。なるほど、ガイベルはバイエルン王家からあのワーグナー以上の厚遇を受けていたし、その後はプロイセンの主導するドイツ統一を「帝国の使者」として熱烈に支持していたのはたしかである。しかし、そのような発言や姿勢にもかかわらず、『ブルンヒルト』を詳しく分析してみた結果、そこで描かれているのが、中世伝説の単純な模倣でもなければ、かといってまた作者ガイベルの表面的な発言や意識的な政治的イデオロギーとも違い、19世紀に広くヨーロッパ全体を席巻しつつあった近代初期の市民社会の特性であることを明らかにした。つまり、ガイベルは『ブルンヒルト』において、中世伝説を換骨奪胎して、競争に明け暮れ効率をひたすら追求する近代市民社会一般の様相をはからずも描いたのであり、それは「ドイツ的なもの」とはほとんど関係ないものであった。にもかかわらず、その素材と作者の説明だけによって、作品『ブルンヒルト』は「ドイツ的なもの」と安易に結びつけられてしまったのである。いわゆる「ドイツ的なもの」が、決定的な社会的影響を与えたにもかかわらず、いわば張り子の虎のように内実の乏しいものであったかを示す好例だと言わねばならない。
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