2016 Fiscal Year Research-status Report
18世紀ドイツにおける人間学的転回と近代文学の成立
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16K02568
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
津田 保夫 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (20236897)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 人間学 / 近代文学 / 十八世紀 / 経験的心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はとくに、18世紀ドイツの経験的心理学における無意識的領域の問題の扱い方と当時の文学との関連について重点的に調査研究を行った。そして、12月には日本ヘルダー学会秋季研究発表会において研究代表者が中心となり、「ゲーテ時代における文学と無意識」というシンポジウムを開催し、他の研究者たちとも議論し、活発な意見の交換を行うことができ、貴重な指摘や示唆を受けることができた。 なお、当該シンポジウムにおいて、研究代表者は司会進行を務めるとともに、「ゲーテ時代の文学における無意識の理論的背景」というテーマでの口頭発表も行った。その中では、18世紀ドイツの経験的心理学における無意識の扱われ方について、理論的および方法論的側面から2つの特徴があることを提示した。 理論的には、無意識的領域は「暗く曖昧」(dunkel)で「混乱」したものとして、意識の「明晰」で「判明」な領域と対比させられ、デカルトからライプニッツ=ヴォルフ学派へと続く認識論的枠組みの中で捉えられていることを示した。無意識という言葉自体が初めて用いられたのは18世紀後半のプラトナーの『哲学的アフォリズム』においてであるが、それに該当する概念は18世紀初頭のライプニッツの「微小表象」や18世紀半ばのバウムガルテンの「魂の根底」(fundus animae)、ズルツァーの「魂の深部」やヘルダーの『批評論叢』第4集における「魂の根底全体」などにも認めることができる。 方法論的には、多数の経験的具体的事例の収集と分析考察が行われていた点に特徴があり、すでにズルツァーにおいて「異常な心理学的事例」の収集が推奨され、クリューガーは実際に医学的事例を収集し、またとくにモーリッツの『経験心理学雑誌』には多数の事例が収集され考察されており、それらの事例が文学と深く関連していることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付決定が10月だったため、平成28年度は期間がやや短く、また学務との関係などもあって、予定していた海外での調査研究のための滞在を短くせざるをえなかったというような事情もあったが、文献資料等に関してはとりあえず差し当たって必要な程度のものは収集することができた。 なお、この海外での文献資料の収集調査は2月にフランクフルトのドイツ国立図書館で行ったが、とくに18世紀ドイツの文学における無意識の問題に関する戦後の研究文献や近年の雑誌論文を閲覧し、この分野の研究史に関する不備を補うとともに、最新の研究の動向を把握するように努めた。ここで収集した文献資料の分析作業も、今のところは順調に進捗しており、それをもとにした研究成果の一部は、平成29年度内にはなんらかの形で公表できる見通しである。 また、当初は平成29年度で検討していた文学と無意識に関するシンポジウムを28年12月に開催したため、研究内容の順序を当初と一部入れ替えざるを得なくなった。しかし全体としての進捗状況に遅れは生じておらず、おおむね順調に進んでいる。なお、シンポジウムでは多数の参加者と有益な意見交換を行うことができ、そのときに得られた様々な貴重な意見や示唆については、今後の研究に大いに活用していきたいと考えている。 その他の点に関しても、交付決定以前からできる範囲内で準備作業を進めていたため、全体としてはおおむね予定通り進捗している。もともと28年度に重点的に行う予定であったハレ大学を中心とする「人間学的転回」の問題についても、無意識の問題と大きく関連しているため、平行して研究を進めてきており、次年度の重点的研究に向けて準備は整いつつある。ただ、文献資料についてはまだ若干の不足もあり、それについては次年度に補うようにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は平成29年度に重点的に行う予定であった無意識的領域の問題の調査研究を28年度に先に行ってしまったという経緯もあり、平成29年度はドイツ啓蒙主義と人間学のの重要な拠点となっていたハレ大学における「人間学的転回」の学問的状況およびその特質と諸問題の考察を中心に、研究を進めたい。1694年設立のハレ大学では、初期啓蒙主義の哲学の基礎を築いたトマジウスとヴォルフ、医学において機械論と生気論を主張して対立したホフマンとシュタール、敬虔主義の代表的神学者フランケらが教授を歴任しており、当時のハレは啓蒙主義と近代医学、敬虔主義の中心地となっていたため、このような哲学と医学の神学の学際的な交流が、学問や思想における人間学的転回を引き起こす土壌を形成していた。したがって、当時のハレ大学における学問的状況を調査することは必要不可欠である 具体的には、まず18世紀前半から中葉にかけてのハレ大学における学問的状況に関する資料の収集調査を行うことにする。よって収集した資料の分析と考察が必要となるが、とくに重点的に行いたいのは、当時の医学と哲学の交流する学問領域、すなわちJ.A.ウンツァーが1750年の著書『人体の哲学的考察』で述べたような「いわば哲学と医学の間に成立しなければならないであろう中間的学問」の分野における人間像の分析である。具体的には、J.G.クリューガーの実験心理学、E.A.ニコライの想像力論、G.F.マイアーの情動論などが対象となる。 さらに余裕があれば、同時代の文学においても平行して起こっていると考えられるような人間観の変化を調査する。具体的には、18世紀中頃(1730年代~60年代)のドイツ文学作品における自然や人間の身体、感性の表象を分析し、そこに描かれた人間像を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
学務その他の関係で、当初予定していた海外の研究機関での調査期間を短縮せざるを得なかったことや、航空運賃が予想よりも廉価であったことなどにより、出張旅費の使用が予定より少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外の研究機関での調査期間を当初予定より長く取ることにより、出張旅費として使用したい。また必要な文献資料等の購入も増やし、その購入費に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)