2017 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ語圏における文学作品の映画化についての映画社会学的研究
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16K02569
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 佳樹 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (90240134)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 映画 / 文学作品の映画化 / ドイツ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、まず前年度から研究を進めてきたエーリヒ・ケストナーの児童文学の映画化(『エーミールと探偵たち』、『ふたりのロッテ』、『点子ちゃんとアントン』、『飛ぶ教室』)の社会学的意味について、1950年代と再統一後の2度のブームを中心にして論文にまとめた。 さらに、トーマス・マンの小説の映画化については、とりわけ東ドイツ時代の『ヴァイマルのロッテ』(エーゴン・ギュンター、1975)をとりあげ、東ドイツ社会のなかで文学作品の映画化が担っていた機能について考察した。東ドイツにおいて、古典的文学作品の映画化がもつひとつの側面は、安定化をもたらす力であり、啓蒙原理の前進に寄与した偉大な精神の価値を国民に確認させるものであった。もうひとつの側面は、規範的な作品の再読による社会批判である。たとえばエーゴン・ギュンターは、『ヴァイマルのロッテ』では東ドイツのゲーテ崇拝(神話)を風刺(解体)し、『若きヴェルターの悩み』では主人公を凡庸化させる。ヴェルターの自殺は個人のロマン派的情熱というよりは、社会の抑圧の結果となる。このように独特の符牒に満ち、複数の解釈可能性をその作品の内部に仕組んでいることは、デーファ映画の重要な特色のひとつだといえる。 また、ナチ時代における文学作品の映画化についても資料を収集し、その特色についての検討を始め、ナチ時代にはドイツとロシアの19世紀文学からの映画化が多い、といった特徴を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エーリヒ・ケストナーの児童文学の映画化についての論文を発表すると同時に、トーマス・マンの小説の映画化については、とりわけ東ドイツ時代の『ヴァイマルのロッテ』(エーゴン・ギュンター、1975)をとりあげることで、東ドイツ社会のなかで文学作品の映画化が担っていた機能について考察することができた。また、ナチ時代における文学作品の映画化についての資料収集も順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、まずトーマス・マン原作の『ヴァイマルのロッテ』(エーゴン・ギュンター、1975)についての考察を論文にまとめ、東ドイツ時代の文学作品の映画化についてひとつのケーススタディを示す。さたに、ナチ時代における文学作品の映画化についても分析を継続する。
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Causes of Carryover |
(理由) 研究を進めていくうえで必要に応じて予算を執行したため、当初の見込み額と執行額とのあいだにわずかながら誤差が生じた。 (使用計画) 使用計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定どおりの研究を進めていく。
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