2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02571
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
シュレンドルフ レオポルト 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (20773188)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 浩司 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80267442)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アイデンティティ / 主体 / ドイツ語圏文学 / オートフィクション / エッセイ / 場 / ジャンク・スペース |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトでは、現代ドイツ文学における「オートフィクション」に関する研究をしている。伝統的な文学においてフィクションとオートビオグラフィー(自伝)のようなノンフィクションを明確に分離することは前提条件といえるものであった。しかし、現代文学において、著者はフィクションを加えることなく自伝を事実だけで綴ることを諦め、経験的知識を組み込んだフィクションを取り入れながらストーリーとして展開する傾向が見られる。このような背景から、現代ドイツ文学の文脈で「オートビオグラフィー」が「オートフィクション」と呼ばれるに至った。この点に関する具体的なデータを収集し、分析を行なった。
代表研究者はPeter Handkeを中心に研究を展開した。彼の50年にわたる全著作は特に「私」をテーマとする作品が常に顕著にみられる。この「私」をテーマとした作品は、伝記ではなくフィクションである。オーストリアとスロベニアという両地域にまたがるアイデンティティをもつ「私」は、両地域に立脚することで、内面でも葛藤が見られる。スロベニアは作家にとってメルヘンのような、平和的、マルチカルチャーな理想郷であり、異邦である。この理想はしかし90年代にユーゴスラビアの混乱により崩壊する。この崩壊によりHandkeは新しいアイデンティティを探す必要に駆られる。ユーゴスラビアに関するHandkeのエッセイを調べ、作家による「私」のあり方の変遷を研究した。 分担研究者は、Kathrin Roegglaの通過のための「場」に注目し、どのように「私」がそのような場で構築されるのかを考察した。 オートフィクションに関する議論は近年急速に展開しており、大変多くの出版物が刊行されている。若手作家では例えばデジタル世界での「私」など新しい成立条件のもとで構築される「私」への注目が観察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は、おおむね計画通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「私」と「場」の関係についてさらに研究を進める。デジタル化社会を迎えた現代において、著作するということはどのような可能性があるのかを考察する。現代はメディア変革の最中にあり、作家はヴァーチャルとリアリティの狭間に生き、書くという問題に直面している。現代作家の中には、作家としての「私」をヴァーチャルなリアリティの中で生きるアバターのような存在を手本として書くものも出てきている。その例としてRainald Goetz、Clemens J. Setz、Michel Houellebecqの一部作品、Elfriede Jelinekのインターネット上の作品などが挙げられ、これらの作品の中での「私」の構成とデジタル社会における「私」のあり方を比較、考察する必要がある。 一方でこのような科学技術の発展に反発する作家もいる。Peter Handkeは80年代終わりから鉛筆で執筆を続けることに固執した。積極的に技術革新を受け入れ新しい可能性を取り入れる作家、あえて従来の手法にこだわる作家などそれぞれの手法を対比し、互いの「私」のあり方の違いについて差異がみられるか注目する。
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Causes of Carryover |
計画していた書籍の購入が、書籍の出版延期によりできなかった。来年度に購入を延期し、該当する額を繰越しすることとした。
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