2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02577
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Research Institution | Heian Jogakuin(St.Agnes')University |
Principal Investigator |
高橋 義人 平安女学院大学, 国際観光学部, 教授 (70051852)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ウェルズ 恵子 立命館大学, 文学部, 教授 (30206627)
田村 和彦 関西学院大学, 国際学部, 教授 (50117719)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | デモノロジー / 悪魔 / 魔女 / グノーシス / 原罪 / 堕天使 / 奴隷意志 / ナチズム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は『悪魔の神話学』という新著を書きあげ、科研隔月研究会において「神の弟」「キリスト教とグノーシス」「堕天使という神話」「自由意志か奴隷意志か」「カントの根源悪をめぐって」等の章を発表し、参加者の批判を仰いだ。特に問題になったのは、アウグスティヌスの時代、初期キリスト教が、ペラギウスらの強い反対があったにもかかわらず、デモノロジーの教義を取り入れ、原罪説を認めたことだった。それによって、人間は生れたときから薄汚れた存在になるよう定められてしまった。そして原罪説を認めたからこそ、イエス・キリストを原罪によって汚されていない存在にするために、キリスト教は、イエスは処女マリアからの処女降誕であるという説を無理してつくりあげる必要に迫られた。さらには「堕天使」という神話も、グノーシス主義の二元論からキリスト教を守るためにつくりだされた嘘だった。 こうした「嘘」が積み重なって、ヨーロッパではいわゆる「中世の大停滞」が生み出された。さらには、魔女狩りが生み出されたのもデモノロジーのせいだった、そんなデモノロジーは宗教改革によってさらに強められたのではないか、ヨーロッパの精神史はキリスト教内のデモノロジー派と反デモノロジー派の論争として読めるのではないか、等の議論が出た。『悪魔の神話学』は2018年内の刊行予定である。 研究分担者の一人は小説『ファウストゥス博士』におけるトーマス・マンのナチズムとの対決について論じた。発表後、ナチズムとデモノロジーの関係、ナチズムとグノーシス主義の関係について活発な議論が交わされた。 研究分担者のもう一人は英米のゴシック小説やホラー小説について報告した。ゴシック小説やホラー小説はデモノロジーから生まれたのか、19世紀のドイツで数多くつくられた一連の「悪魔の書」(Teufelsbuecher)とゴシック小説やホラー小説はいかなる関係にあるかが議論された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の新著『悪魔の神話学』が完成したのは2017年度の大いなる進展だった。 だが、中世ヨーロッパの最大の思想家であったオッカムがデモノロジーや魔女狩りに反対していたにちがいないという想定の下に、オッカムの『大論理学』読書会を進めたものの、オッカムがデモノロジーや魔女狩りに反対していたという証拠は残念ながら掴めなかった。 ナチズムとデモノロジーの関係については、反ナチの人々がナチを「死神」と呼んだビラが多数あったことは確認できたものの、ナチを「悪魔」と呼んだものは見つからなかった。またナチズムがデモノロジーであるというためには、ナチズムが何を悪魔視していたのかを突き止めなければならず、ナチズムがユダヤ人を「悪魔」と呼んでいるものを探したが、残念ながらこれも見つからなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、ヨーロッパ精神史におけるデモノロジー派と反デモノロジー派の論争を、さらに具体的に明らかにしていきたいと考えている。 両者のあいだの有名な論争は主に3つある。(1)古代ローマ帝国におけるアウグスティヌス(デモノロジー派)とペラギウス派(反デモノロジー派)の論争、(2)イタリア・ルネサンスにおけるサヴォナローラ(デモノロジー派)とフィチーノ(反デモノロジー派)の対立、(3)マルティン・ルター(デモノロジー派)とエラスムス(反デモノロジー派)との論争である。 このうち(3)はすでに2017年度に研究したので、2018年度には特に(1)(2)に重点を置いて探究を進めたい。
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Causes of Carryover |
次年度は最終年度なので、集まった資料の整理をしてくれるアルバイトおよび謝金が必要になる。その分を意図的に残しておいた。
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Research Products
(19 results)