2017 Fiscal Year Research-status Report
漢代における物語のジャンル横断的研究―古代的宗教世界の解体を承けて
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16K02581
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷口 洋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40278437)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に口頭発表した内容の一部を学術論文として公刊したほか、次の段階として、以下の2点の研究を行い、成果を発表した。 まず、「中国辞賦理論首届国際高端学術討論会」(10月、中国)において、「浅談揚雄“擱下賦筆”」と題して口頭発表を行った。前漢最末期の揚雄は、絢爛たる修辞を凝らした辞賦を一時期相次いで制作し、時の政治への意見を陳述したが、やがて辞賦という文体がその目的を達し得ないことに気づいて筆を折る。このことは辞賦史上の一大事件として、これまでもさまざまに論じられてきたが、本発表では、揚雄が作者としての自らの意識を「自序」(『漢書』揚雄伝はこれに依拠したという)という形で表現したことに鑑み、この事件を揚雄の生涯全体の中でとらえることを試みた。それにより、揚雄が言語表現に対する鋭敏な批評意識を持っており、それは生涯を通して変わらなかったこと、賦による政治批判を断念したことにより、文学的営為が公的なものと私的なものとに分裂し、それが後漢に受け継がれてゆくことが明らかになった。後漢において、特に賦の文体によって自己を語ることが盛んになるが、その起源は揚雄に求めることができるのである。 次に、「第14届先秦両漢学術国際研討会」(11月、台湾)において、「神話・小説・著述:『史記』故事世界的三個維度」と題して口頭発表を行った。ここでは特に項羽と劉邦に関する記述を主な例として、天下を争う英雄、とりわけ新王朝を樹立した劉邦を神秘化しようとする語り、一方で彼らの些末な事績を興味本位に脚色した小説的な語り、それらの物語の奔流の中にあって自らの著述者としての意識を表明する司馬遷自身の語りの3つが、『史記』においてせめぎ合っているさまを示した。本発表は年度内に論文として中国の学術雑誌に掲載された。 以上に加え、一時中断していた『漢書』礼楽志訳注の作成を再開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、『史記』『漢書』等を主たる材料として、戦国の世・漢武帝の世の二つの時期を巡る物語を研究する予定であったが、それについてはまだ初歩的な段階にとどまった。一方で、次年度に予定していた、後漢の文人による自己を語る物語について、前漢末の揚雄を契機として考えることができ、ある程度先行的に着手することができた。口頭発表のほか、学術論文も着実に公刊されている。『漢書』礼楽志訳注作成の再開と合わせ、全体としてみれば問題なく進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究を承け、歴史を語る物語や、後漢の文人の自己語りについて引き続き研究を深めるほか、古楽府に典型的な民衆レベルの物語に関する研究に着手したい。特にジャンル横断的研究という視点から、物語的内容を持つ楽府・辞賦のような韻文に注目する。発表の機会としては、10月に中国での学会発表を予定している。 『漢書』礼楽志については、順調に進めば、次年度中に訳注の作成をひとまず終える予定である。メール等の手段を活用し、研究協力者との緊密な連絡を維持する。
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Research Products
(4 results)