2016 Fiscal Year Research-status Report
多言語文献と図像・文物資料によるモンゴル時代の東西交流の実態解析
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16K02584
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮 紀子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (60335239)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大元ウルス / フレグ・ウルス / イスラーム / 元典章 / 集史 / モンゴル / ムスリム / Il Milione |
Outline of Annual Research Achievements |
モンゴル時代に編まれた多言語の典籍・碑刻、図像資料、出土文物・工芸品・美術品のデータを収集・整理し、とうじの東西交流を詳細に描出・再現することを目指す。 てはじめに、『元典章』に収録される有名な1280年発令の「禁回回抹殺羊做速納」をとりあげた。従来「モンゴルとムスリムの慣習の衝突」という単純な図式化を以て紹介されるが、『元史』『集史』『百万の書』を中心に膨大な関連記事を照合・分析していくと、背景に二つの集団(世祖クビライの寵臣アフマド・ファナーカティー率いるムスリム集団とチンキム皇太子に期待する高官たちとウイグル商人の集団――その多くはネストリウス派キリスト教徒)の権力と富をめぐる熾烈な闘争があったことがわかる。この禁令の最大の目的は、前者のユーラシア規模の商業活動を妨害することだった。また、アフマド一派を中傷するために、トルイ家の投下領だったブハラやフレグ・ウルスで発生したいくつかのスーフィー教団の叛乱、フレグ・ウルスの官僚たちがイスラームを標榜するマムルーク朝やジョチ・ウルスと内通していた事例が列挙されている。おそらくクビライ自身の本意によるものではなく、事実、チンキムを幽閉するやいなや、この禁令を撤回した。二つの集団の争いは、クビライの死後も継続した。かれの孫アーナンダが、ムスリムを装ったのも、チンキムの子成宗テムルと対抗し、且つフレグ・ウルスのガザン・カンや中央アジアのモンゴル諸王等の協力をとりつけながら、次のカアンとなるためであった。 なお、大元ウルスとフレグ・ウルスの迅速かつ密接な情報のやりとりの傍証として、仏舎利の収集と式典、世界図・海図の製作、モンゴル王族の肖像画の製作、首都設計等についても論じた。また、大きく二系統に分類される『集史』モンゴル史の諸写本の成立の順序を挿絵の観点から見直した。クビライとチンキムの不和の一因となった大醜聞についても指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国立公文書館内閣文庫の漢籍、和書の調査をはじめ、国内において関連資料の調査・蒐集を滞りなく行い、『集史』『ヴァッサーフ史』等の訳注作製も順調に進んでいる。 今年度公刊にいたった論文の数こそ1本だが、原稿用紙にして500枚分、註によっては、小論文に匹敵する内容をもつものもあり、多分野に亙って、新知見や問題提起も数多く盛り込んだ。『集史』や『世界を開くものの歴史』などペルシア語資料については、広く利用に供するため、諸写本を校訂しつつ日本語訳を随時提供することにつとめた。 研究成果の社会への還元という点では、高校世界史の副教材の分担執筆、漢籍セミナーでの講演なども行った。
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Strategy for Future Research Activity |
大英図書館のペルシア語写本の調査を予定していたが、ホームページ上において全頁カラーのデジタル画像が公開されつつあり、調査地を変更する可能性がある。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた書籍の出版が次年度に遅延したため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予定していた書籍の購入に使用
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Research Products
(4 results)