2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半における英国黄禍論小説と日本のアジア主義小説の比較文学的研究
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16K02601
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
橋本 順光 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (80334613)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 南進論 / ロープ・マジック / フランク・バック / 昭和天皇 / タイ(暹羅) / インド / ハンティング(狩猟) / 欧州航路 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の成果は、著作への寄稿2件、論文2件、新聞への寄稿3件、口頭発表7件(英語4・邦語3)である。計画にしたがって関連資料を購入し、内外のアーカイブを調査することで、日本のアジア主義小説と英国の黄禍論小説が、主題を転用しながら相互に補完しあう過程を明らかにできた。 成果は以下の3点に集約できる。第一に、南進論の代表と目される南洋一郎の小説『吼える密林』(1933)が、米国のフランク・バックによる実録小説を流用していることが判明した。その一端は、1936年のタイ(当時は暹羅)のクロヒョウ脱走事件に関する論文で発表した。同事件は『吼える密林』の連想から帝都の猛獣狩りとして多くの小説や記録に登場する一方で、関東大震災時の猛獣脱走の流言とも関連づけられ、同じくタイから贈られた象が戦時下に薬殺処分される遠因ともなった。 第二に、英国の代表的な黄禍論小説である『キモノ』(1921)が、皇太子時代の昭和天皇の訪英時期を狙って刊行された可能性が明らかになった。日本に駐在していた作者のアシュトン=ガトキンは、皇太子を接待した外交官であると同時に、日英同盟の存続に否定的な報告書を英国に書いており、『キモノ』はそんな宣伝活動の一環と考えられる。一方、日本では、映画化を懸念する政府と民間の特に廃娼運動者との間で受容の相違が見られ、これらの点を論文で詳述した。 第三に、アジア主義の高まりのなかで1920年代にインドの男性がしばしば謎めいた存在として日本の小説に登場したが、その表象が多く英国を経由していることが判明した。インド=魔術という連想が、英国の港を経由した欧州航路に起因することを指摘し、その一例であるロープ・トリックが日英で対照的な形で受容されたことを著書への寄稿で指摘した。こうした転用については、19世紀以前の逸話や物語が20世紀に語りなおされた事例を、いくつかの記事や口頭発表で指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
次年度に予定していた成果発表が今年度末に可能となり、次年度予算を転用してトロントで開催されたAssocitiaon for Asian Studiesの年次大会にてパネル発表を行ったため。
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Strategy for Future Research Activity |
口頭発表が初年度に集中したが、関連調査に基づいて論文を発表する作業は、次年度の予算の範囲内でおおむね可能と見込まれ、研究計画に大きな変更はなく、今年度と同様の研究の遂行が予想される。
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Research Products
(15 results)