2017 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半における英国黄禍論小説と日本のアジア主義小説の比較文学的研究
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16K02601
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
橋本 順光 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (80334613)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ステッド(W. T. Stead) / 神智学 / シャストリ(H.P.Shastri) / ポール・リシャール(Paul Richard) / ミラ・リシャール(Mirra Richard) / ニヴェディタ(Sister Nivedita) / 大川周明 / 大亜雑誌(Asiatic Review) |
Outline of Annual Research Achievements |
2年度目の成果は、編著1件(英語・日本語で1本ずつ寄稿) 3本の論文(日本語1・英語2)、7本の記事、1本の共著記事、5本の口頭発表(日本語3・英語2)である。 第1に、アジア主義の図像をめぐる風刺と宣伝の相関を明らかにした。特に編著『万国風刺漫画大全-戦争の世紀の幕開け-』全4巻解説では、『評論の評論』の編者ステッドが、ハーグ平和会議で大韓帝国の「密使」に取材して写真入り記事を書き、英領エジプトになぞらえて同情的に紹介していたことなどを指摘した。 第2に、アジア主義の言説が日英で転用される相互交渉の例を発掘した。岡倉覚三やタゴールがL・ディキンソンの匿名で書いた中国文明論を中国人の著作と誤解し、感銘を受けた岡倉は草稿を書いていたことがニヴェディタの書簡から判明し、後年、ディキンソンが岡倉の『茶の本』を読んで日本で岡倉に面会したことも明らかとなった。 第3に、アジア主義に対する英国政府の調査の一端を解明した。公文書館を調査し、ペトリーが「汎アジア主義運動」の報告書作成時に多く活用したエージェントPこと、H・P・シャストリの活動を明らかにした。早大教授ではなく学内学会講師であり、ダス、アタル、サバルワル、リシャール夫妻(ポールとミラ)、大川周明、大杉栄、平沢哲雄、中尾秀男らの詳細な報告を英国政府に送るなど、前田專學の引く回顧録とは大きく食い違う事実が判明した。シャストリは上海に渡って神智学協会の支部代表となり、頓宮寛らとアジア主義団体に加わり、『大亜雑誌』などを刊行したが、英国政府だけでなく、攪乱か金銭を目的として日本大使館にも情報を提供していたこともわかった。 副産物として、インド官憲が差し押さえた大川周明の英文原稿「日本における汎アジア主義の精神」を発見した。1917年4月、総合雑誌『モダン・レビュー』への掲載を企図しており、ペトリ―の報告でも引用されたことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予算の点で当初の計画通りには海外の文書館などで調査を行えなかったものの、可能な範囲で調査および資料を購入し、ほぼ予定通り、英語・日本語で口頭発表および論文を成果として出せたので。
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Strategy for Future Research Activity |
内外で可能な限り資料調査を行い、それらの調査に応じて、書籍ほか資料を購入する。それらをふまえながら、予算内で内外で論文および口頭発表を準備する。
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