2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02605
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Research Institution | University of Niigata Prefecture |
Principal Investigator |
波田野 節子 新潟県立大学, その他, 名誉教授 (50259214)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 植民地 / 東アジア / 日本語創作 / 朝鮮近代文学 / 台湾新文学 / 李光洙 / 謝春木 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)本研究の目的は、日本の植民地だった台湾と韓国にあらわれた日本語文学について、その発生から終焉までの様相を明らかにすることである。昨年度は、台湾で最初の日本語文学作品を書いた謝春木についての論文を発表したが、そのつづきとして今年度は、韓国で最初の日本語文学作品を書いた李光洙との比較を行ない、「東アジアの近代文学と日本語小説」(『日本植民地研究の論点』岩波書店)を発表した。韓国の李光洙にはハングルという書写文字があったので日本語作品を書いてすぐに朝鮮語文学の創出へと向かうことができたが、書写文字をもたないビンナン語を母語とした謝春木は、日本語と離れることがそのまま文学を棄てることにつながったと論じ、2人の言語環境の違いを浮き彫りにすることで、民族主義の傾向が強い朝鮮近代文学と多様性を重視する台湾新文学という特徴を導きだした。 (2)本研究の副次的目的と位置づけた研究者ネットワーク構築のため、研究協力者たちと9月に沖縄で「東アジアの植民主義と文学」をテーマに国際シンポジウムを開き、国内植民地と呼ばれる沖縄の特性について討議した。植民地時代の文学研究には東アジア全体を視野に入れなければならない必要性を再確認した。 (3)昨年度にひきつづき、李光洙が植民地時代末期に日本語で書いた文章を翻訳付きで収録した『李光洙後期文章集Ⅱ』を韓国の研究者と共編刊行した。台湾の文学全集では日本語作品を翻訳付きで全集に収録するのが一般的だが、日本語資料が収録されず顧みられていない韓国において、これは画期的な資料集である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、日本の植民地だった台湾と韓国にあらわれた日本語文学について、その発生から終焉までの様相を明らかにすることを目的としている。 うち「発生」については、台湾と韓国でそれぞれ最初の日本語小説を書いた謝春木と李光洙を比較し、書写文字の有無という言語環境の違いが、その後の2地域の文学の進展方向に決定的な違いをもたらしたことを明らかにした。 一方で「終焉」については、研究が遅れている。植民地から解放されたあとの日本語文学の状況は台湾と韓国でまったく違うが、抑圧を受けた点では同じである。台湾の作家は日本語で書きつづけることを望んだが国民党政府に中国語を強要され、そのため日本語はむしろ無垢な言葉としての地位を獲得した。一方、民族感情の強い韓国/北朝鮮ではすぐにハングルに切り替えられて若い日本語世代の作家は言語トラウマに苦しんだ。残る期間中に具体的な作家を通して解放後の2地域の比較を行ないたい。
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Strategy for Future Research Activity |
台湾と韓国の二人の作家を取り上げて比較する。具体的には台湾の客家出身で植民地時代に日本語作品を多く書き、終戦後にも少しずつ日本語を書きつづけながら中国語をマスターした龍瑛宗と、日本で終戦を迎えて平壌にもどったあと越南して1950年代に作家として活躍し、1973年に日本に帰化した孫昌渉を取り上げ、彼らのなかの日本語の位相について考える。
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Causes of Carryover |
沖縄で研究協力者と共同開催した国際シンポジウムの費用が予想よりも少ない出費で収まったこと、および研究を1年延長すると決めて予定していた書籍の購入を抑えたため。
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Research Products
(10 results)