2017 Fiscal Year Research-status Report
民間説話に見るアフリカ中・西部の心性分析と語りの教育効果の検証
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16K02608
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
永井 敦子 上智大学, 文学部, 教授 (50217949)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アフリカ文学 / 民間説話 |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 中央・西アフリカ、特にカメルーンの民間説話の分析と心性の抽出に関しては、昨年度に課題として残った説話と語りの歴史的・文化人類学的研究も行なった。研究に際し、当該分野を専門とするアフリカの研究者との通信および招聘による共同研究を実施し、同時に以下のセミナーを開催してその成果の一部を公開した。 ① 中央アフリカカトリック大学(カメルーン)マリ=テレーズ・メンゲ教授(文化人類学・社会学)とともに研究対象とする説話を選択し、互いの分析結果を持ち寄って議論した。また2017年6月20日に東京で公開セミナー「カメルーンの民間説話に見るアフリカの心性」を実施した。セミナー後は、合同シンポジウム「中央・西アフリカの説話に見る紛争回避の知恵」を計画し(2018年11月開催予定)、文化人類学的分析と文学的分析を融合させた研究を、同氏とともに継続中である。 ②ブカヴュ・カトリック大学(コンゴ)ルカ・ルサラ=クカ教授(アフリカ宗教学、民俗学、エジプト学)との共同研究を数回にわたって行い、2018年2月17日に大阪で、公開セミナー「説話に学ぶアフリカの知恵ー争いごとを解決する鍵ー」を開催した。 2)アフリカの民間説話を文学教育に利用する方法の開発については、本年度は特にフランス語初学者教育への利用効果を検証するために、大学1年生の異なるグループに対してテクストの解釈と語りの実践を行い、2017年の5月と12月にその成果を公開する機会を持った。さらに参加学生に聴取を行い、その効果を確認した。また練習には、コートジボワールの本学協定校の学生有志にスカイプによるテクスト解釈や発音の指導を、また交換留学生に直接の指導補助を依頼し、一部の学生はスカイプによる対話を継続している。 3)故江口一久教授がアフリカ中部・西部で録音された民間説話の語りのテープのデジタル化については、国立民族学博物館において作業が継続されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は初年度の研究に不足していたアフリカの民間説話の語りの歴史的・文化人類学的背景について、理解を深めることができた。 特に本年度上期からは、本科学研究費により招聘したメンゲ教授(カメルーン)、下期からは、本務先客員教授ルサラ教授(コンゴ)という2名の専門家との共同研究を持続的に進めることで、関連分野の最新の研究状況、民間説話研究の現地社会における学術的評価等についても、理解を深めることができた。同時に、日本で本分野を研究する者が本研究を行うに際しての有効なアプローチやその学術的意義について、より多角的側面から検討するにいたった。 以上の研究成果を総合的に取りこんだ論文が未発表であるため、2018年度に予定しているメンゲ教授との合同シンポジウムの記録の冊子化による、研究成果の公開を予定している。 アフリカ民間説話の語りの教育的効果については、ほぼ当初の計画通り実行し、肯定的な効果を得ることができた。テクストに関してはフランス語が比較的容易なため、初学者の読解意欲を引き出すと同時に、内容自体は単純でなく、異文化理解的な関心や倫理的関心などの知的関心を喚起する面が大いにあるため、成人の第二外国語教育にも適した素材であることを確認できた。 故江口一久教授による民間説話の音源資料(カセットテープ)のデジタル化による保存と、文化遺産としての活用可能性の追求については、本研究の着想当初は個人的な作業を多く想定していたが、国立民族学博物館のご理解により理想的な形で保存・活用される道筋がつき、最新技術の活用の下その方向で作業が進められている。今後本研究との関連においては、江口教授の研究活動の意義や重要性、同教授による語りの実践をめぐる活動の波及効果などの視点から、日本の、及び国際的なアフリカ文化研究の重要な事例として、カメルーンを含め、広く国際的にも評価・紹介したいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度にはこれまでの研究活動の成果を、パリ(フランス)のInstitut Afrique-Mondeとの共催による公開シンポジウム「中央・西アフリカの説話に見る紛争回避の知恵」において発表し、その成果を小冊子にまとめ、記録として残したい。 本シンポジウムはマリ=テレーズ・メンゲ教授(文化人類学・社会学)との合同運営とし、2018年11月にパリ(フランス)で開催することを予定している。合同運営とするのは、本研究がアフリカの研究者と日本の研究者の共同研究であり、かつ文化人類学的視点と文学的視点とを融合させた学際的研究であるという研究形態を、シンポジウムの開催形態に反映させるためである。またパリを開催地とするのは、そこが移動に際してのカメルーンと日本の中間地点であり、かつ国際的に見た場合、フランスが本研究の拠点の一つで、専門家も多いからである。すでにInstitut Afrique-Monde所属の現地の数名の研究者と連絡を取り、シンポジウムへの参加等についてご協力いただくことになっている。 本シンポジウムでは、研究発表や議論のほか、アフリカの説話の語りの実践と、その教育的効果の検証についても報告を予定している。また江口一久教授のカメルーンでの音源収集とその書籍化の活動、語りの実践活動についても、日本人研究者によるフィールドワークの成果として本シンポジウムで報告することを予定し、国立民族学博物館や、江口教授との語りの実践を経験された方々にもご意見をあおいでいる。 そのほか、シンポジウムでの発表に含めきれない考察については、別途日本語論文を執筆することを予定している。
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Causes of Carryover |
2018年度はパリ(フランス)で11月に、本研究に基づく国際シンポジウムを海外の共同研究者との合同開催にて開催することを予定している。そのため、(1)本シンポジウム準備(登壇予定者との打ち合わせ、会場視察など)のため、8月から9月にかけて開催予定地のパリに短期滞在することを予定している。(2)また11月初旬にシンポジウム開催のため、パリに数日滞在することを予定している。(3)さらに本シンポジウムの記録を冊子として残すことを予定している。 特に以上の活動に関わる渡航費、印刷費のために、繰り越された研究費を使用することを予定している。
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