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2018 Fiscal Year Research-status Report

スベトラーナ・アレクシェーヴィッチの文学の研究-「証言」が「文学」に変わる時ー

Research Project

Project/Area Number 16K02610
Research InstitutionNihon University

Principal Investigator

安元 隆子  日本大学, 国際関係学部, 教授 (40249272)

Project Period (FY) 2016-04-01 – 2020-03-31
Keywordsスベトラーナ・アレクシエーヴィチ / 『亜鉛の少年たち』 / アフガニスタン戦争 / 証言 / 国際主義 / 南部国境防衛 / 卑劣・不名誉な戦争 / ソビエト共産主義
Outline of Annual Research Achievements

今年度はスベトラーナ・アレクシエーヴィチの『亜鉛の少年たち』について、登場するアフガニスタン帰還兵の証言のキイワードと考えられる「国際主義」「南部国境防衛」「恥」「卑劣・不名誉な戦争」を基に検証した。
アレクシエーヴィチは市井の人々の気持ちを基にした歴史の表現を目指したが、そこに歴史の事実を加味することで、祖国のために戦ったこの戦争自体が大義無き戦いだったことが確認され、帰還後は祖国の欺瞞に気づき、周囲の無理解にさらされ心身ともに傷つき居場所を見つけられないアフガニスタン帰還兵のやり場のない苦しみや、家族を失った人々の悲しみをより明白にした。
しかし、それらを描くことだけがスベトラーナ・アレクシエーヴィチの目的ではなく、真実、つまり、過酷な戦争の実態を隠蔽し国民に知らせまいとするソ連のやり方への告発がこの証言集のタイトル『亜鉛の少年たち』には込められていることを指摘した。つまり、中は空洞であったり、肉片を集めただけでとても家族には見せることのできない遺体の真実を亜鉛の棺をハンダ付けにすることで国家の威信を保ち、国民の戦争肯定の心情を維持しようとしたソ連という国への告発である。
と同時に、これらの証言には「信じること」に馴らされてきたことへの後悔と、疑うことなく従順に生きることが求められてきたソビエト共産主義へのアンチテーゼが表明されていることも指摘した。
こうした真実を見つめ、個として生きようとする「覚醒」は、この『亜鉛の少年たち』以前に書かれた『戦争は女の顔をしていない』や『最後の証人たち』に通底していることではあるが、この後の『チェルノブイリの祈り』 や、ソビエト連邦の崩壊と人々の心理を追った『死に魅入られた人びと』 『セカンドハンドの時代』 に至る道筋が、この『亜鉛の少年たち』に於いてはっきりと可視化されていると考え、その意味でも注目すべき作品であると結論付けた。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

一昨年度末、ロシア・ベラルーシへの文献調査予定であったが、直前に夫が脳梗塞で倒れたため、すべてキャンセルせざるを得ず、以後、夫の入院、リハビリが続いた。また、昨年秋には義母の危篤、死亡により九州へ何度か往復せざるを得ず、昨年度は計画が大幅に遅れた。
以上により、スベトラーナ・アレクシエーヴィチの『亜鉛の少年たち』の背景となるアフガニスタン戦争研究までにとどまり、作者と証言者との間の裁判の検証、及び『死に魅入られた人びと』と『セカンドハンドの時代』の背景となる、ソビエト連邦崩壊の実証的な研究が出来なかった。そのため、進捗状況は「遅れている」と判断した。

Strategy for Future Research Activity

本研究の一年間の延長を認めていただいたので、今年度は前半に『亜鉛の少年たち』の裁判をめぐる論文を執筆する。
そして、昨年度末にベラルーシで収集してきた世界の研究者によるスベトラーナ・アレクシエーヴィチの論文を翻訳し、研究動向を明らかにする。また、夏にできればロシアにてソビエト連邦崩壊時の人々の「気持ち」が表現された文献を集め、後半は、『死に魅入られた人びと』と『セカンドハンドの時代』の作品論を執筆する。
以上の行程を経て、スベトラーナ・アレクシエーヴィチの作品において「証言が文学に変わる時」何が起きているのかを再検証する。その際、例えば北方領土の元島民の証言集などと比較してその特質を明らかにし、論文にまとめる。

Causes of Carryover

次年度使用額が生じた理由は、平成29年度末のロシアへの調査予定が夫の脳梗塞による入院・看病によりできなかったこと、また、平成30年度も義母の危篤、葬儀に伴い九州への往復を余儀なくされたことなどにより、研究計画が大幅に遅れ、研究期間の一年間延長をお認めいただいたことによる。
令和元年度は、ロシア語文献の翻訳補助謝礼とソ連崩壊の社会学的見地からの文献収集、及び、1週間ほどのロシア・ベラルーシへの文献調査を計画しており、全額使用する見込みである。

  • Research Products

    (1 results)

All 2019

All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results,  Open Access: 1 results)

  • [Journal Article] スベトラーナ・アレクシエーヴィチ『亜鉛の少年たち』論―隠蔽された「真実」の検証―2019

    • Author(s)
      安元隆子
    • Journal Title

      国際文化表現学会

      Volume: 15 Pages: 17-33

    • Peer Reviewed / Open Access

URL: 

Published: 2019-12-27  

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