2019 Fiscal Year Annual Research Report
A study on Svetlana Alexievich's Documentary Literature
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16K02610
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
安元 隆子 日本大学, 国際関係学部, 教授 (40249272)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | スベトラーナ・アレクシエーヴィチ / 『亜鉛少年たち』 / 『アフガン帰還兵の証言』 / ドキュメンタリー / 証言と文学 / 文学を巡る裁判 / エピグラフ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はスベトラーナ・アレクシエーヴィチの『亜鉛の少年たち』を取り上げ、特にこの本の執筆に協力した証言者が作品の公表を巡りアレクシェーヴィチを訴えた裁判に注目し、証言集が文学作品として成立するためにどのような力学が働いているのかを考察した。 この『亜鉛の少年たち』の末尾に付された裁判記録の部分は日本語翻訳がなく、日本語翻訳版『アフガン帰還兵の証言』の翻訳者のあとがきに概略は触れられているものの、詳細な検討はなされていなかった。しかし、この裁判はアレクシェーヴィチの証言をまとめ作品とするという方法を一度立ち止まらせ、少なからずその方法について熟考をもたらした点で彼女の文学のエポック・メーキングを作ったと考えられる重要な事件である。本研究はこの裁判を詳細に検討しドキュメンタリーの方法自体をも考察した点に意義があると考える。 裁判記録を丹念に読んでいくと原告側がアレクシエーヴィチを訴えた理由としては、証言された事実を変えてはならないというドキュメンタリーについての頑なな考え方、そして、ソ連時代の祖国愛、成功したアレクシエーヴィチに対する経済的な嫉妬などが絡み合っていることがわかる。特に「ドキュメンタリー」とは何か、についての論議は現代にまで続く課題である。証言の事実を優先しながらも証言のどこを切り取り、どのように配置するのかは作者による。そこに作者の世界観や主張を込めた物語が生まれる。この『亜鉛の少年たち』においては、エピグラフの使用、また、アレクシエーヴィチに反発する証言者との変化する会話を収録することにより作者の物語の骨組みが示されていること、また、これこそが証言集を文学作品とさせているものであることを明らかにした。 その反面、アレクシエーヴィチの証言者のプライバシーを守るという意識の欠如の問題も浮き彫りにすることでドキュメンタリーの在り方についても考察した。
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Research Products
(1 results)