2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02617
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
中村 裕昭 弘前大学, 教育推進機構, 教授 (00559205)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 形式意味論 / 統語論 / カテゴリー文法 / 様相論理 / 可能構文 / 推論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、内包論理意味論に基づき日本語の可能助動詞「られ」を含む構文を、英語の可能表現と比較しながら、統語論と意味論を並行記述するカテゴリー文法の視点から共通する様相的意味を考察した。日本語の助動詞「られ」が様相的意味と受動など事象的意味をあらわす場合について明示的な用法の際を見出すことを、尊敬表現「お~になる」を使って明らかにした。従来は「られ」の多様な用法は単一の助動詞の多重の用法として考えられてきたが、当該研究で、可能と受動の用法が以下のように明示的に区別されることを解明できた。(1)可能用法は複合動詞形成で交差依存の結合により派生するが、受動用法では埋めこみ依存の結合を示す。(2) 可能用法では、語幹動詞の斜格項や、項の所有者項でさえ主語となれる柔軟な主語化現象を示すの対し、受動用法では語幹動詞の主題項しか構文全体の主語となれず、主題項の主語化は義務的である。 まず当該助動詞の2用法が互いに排他的であることを明らかにしたので、可能構文を形式意味論・論理学のmodalityという概念から捕らえなおして研究を進めた。可能構文の重要な特徴である格交替現象を検討し、語幹動詞の項が主格標示された場合とそうでない場合で(1)主格標示された場合、複合動詞のスコープより主格項のスコープが広くなる。(2) この場合、主格項は当然一般化限量子として記述されることになるが、残余部分の表現が不連続構成素となる。(1)と(2)の事実をMorrill/Moortgat/Carpenterらのカテゴリー文法的アプローチから記述した。 研究成果は言語科学学会や太平洋アジア論理情報計算学会の国際会議に投稿し、採択とはならなかったが、28年度の研究目標であった可能動詞の記述的研究は概ね達成しており、29年度には論理的記述の精度を高め、推論にまで考察を広げて成果を発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題に関する記述的な段階としてはおおむね順調である。単一の助動詞を含むとされる可能構文が受動構文と大きく異なる点の記述的な分析は終了し、カテゴリー文法的記述も現段階としては満足できる段階まで理解を進めた。様相論理を高階論理の視点から記述する枠組みについてはカテゴリー文法を採用することとし文献資料を収集して整理したので、可能複合動詞のような複雑な構文の分析も可能となった。28年度は可能構文と受動構文の根本的な相違を考察し、現代日本語文では前者を様相のカテゴリーで、後者をボイス(態)として記述すべきことを理解した。また公開化された様相論理についても理解を深め、従来のカテゴリー文法に様相の概念を追加する文法モデルを構築できた。口頭及び論文発表については投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず現段階での可能構文と尊敬表現「お~になる」との結合や可能と受動の構文的相違、量化名詞句の格交替と可能のスコープの相関を、カテゴリー文法の視点から記述・説明し、国際会議などにおいて口頭発表とプロシーディングスレベルでの論文発表を目指す。可能助動詞をめぐる現象の意味的分析・記述がひとまずまとまった時点で、談話的推論の視点から上記の分析の妥当性を検討する。最終的には統語論的分析から構文のモデル理論的意味が自動的に派生され、その派生的意味を集積しただけで推論の妥当性が判断されるような厳密に形式的なモデルを構築する。 発表形式については29年度に国際会議への口頭発表に応募し、プロシーディングスに内容をまとめて論文あるいは概要を公刊する予定である。本研究のさらに量化名詞句と様相助動詞のスコープの問題や可能構文を含む談話における形式的推論なども同様に国際会議発表をへたのち、査読つき雑誌に投稿していく計画である。
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Causes of Carryover |
本年は国際会議等へ論文を投稿したが採択されず、本研究用の文献資料を購入したが39,568円残額となったため、この残額を次年度使用分とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
請求内訳に沿って使用し、国内・国際会議への発表用旅費および文献資料収集に利用する。また研究に必要な物品を購入する。
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