2018 Fiscal Year Research-status Report
主観性に基づく言語の類型化と他の言語類型との相関に関する認知類型論的実証研究
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16K02618
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
上原 聡 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 教授 (20292352)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
Narrog Heiko 東北大学, 文学研究科, 教授 (40301923)
小野 尚之 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (50214185) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 主観性 / 主体性 / 認知言語学 / 言語類型論 / アジア言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの本課題研究の成果により主観性の言語表現を、概念内容(事態内容)にもとづけるのではなく、各言語における言語慣習化のパターンによるものと明確に定義した。本年度はさらに、特に主観性と主観化および主体化の区別に関して、捉えおよび概念内容の異同の有無をもとに明確化した。それにより、言語類型化の元になる言語データ収集の対象が前年度よりさらに明らかになり、本年度は概念内容別に(内的状態述語、移動表現など)多言語を対象とした広範囲の類型論的研究と日本語と個別言語(タイ語、朝鮮語など)を詳細に分析する対照言語学的研究の両方においてある程度の成果を得ることができた。 前者の面では、前年度に続き内的状態述語について地域・系統的に偏らない120の言語の文法書を文献資料として各言語の文法記述での人称制限の有無を調べ、以下の暫定的な結果が得られた:1)内的状態述語の一つとした意図表現については、他の表現には人称制限が見られない言語においても人称制限の現象が見られることがある、つまりその概念内容そのものに人称制限の動機付けがあり本研究の言語の主観性の傾向には関わらない可能性があること、2)人称制限に近似するが主観性表現の定義上は異なるものと位置づけるべき言語現象が直接経験を表す証左詞やモダリティのマーカーなど数種認定でき、それらがむしろ有標形式であると特徴付けることができること。 後者の日本語との対照言語学的研究では、文法的な主観性表現に加え、好まれる言い回しとしての表現差も対象に取り上げ、対訳コーパスなど利用した研究においてタイ語との対照を中心に行った。それにより、代名詞の非明示においては同じ類型に属する言語であっても、1)自称詞の非明示だけでなく明示化の要因も言語によって異なること、2)自称詞が明示化されていてもその形式選択に主観性スケール上の差が関わっていると分析できることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
類型論的な多言語をデータとする分析は時間がかかるため成果発表にまだ至っていないが、該当する主観性表現の記述・用例の収集も進んでおり、主観性表現の類型論的研究の枠組に関わる多様性の中の様相が、また枠組の包括的な捉え方が見えつつある。対照言語学的な観点からの研究成果は前年度に続き出て来ており、学会発表や論文出版を通して成果発表も行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の最終年度に当たる4年目には、これまでの類型論的研究と日本語との対照言語学的研究の両方で行ってきた文献・資料・データの収集および検証をまとめ総括するとともに、これまでにデータをまとめたものをデータベースとして使用可能な形にし、また研究成果をまとめて言語の主観性を言語類型論的に展望する論文か著書の形で出版公開することを考えている。
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Causes of Carryover |
海外共同研究者の元に赴き研究打合せ・資料収集を行なった際、当該研究機関の宿泊施設の無料利用を許されたなど、共同研究者からの支援を受けたため。 多額ではないが、データ分析などの人件費・謝金に当てたいと考えている。
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