2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02619
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上野 善道 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (50011375)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アクセント / 危機方言 / 徳之島浅間方言 / 久米島方言 / 与論島方言 / 北奥方言 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,現地調査としては,本土方言としては北奥の津軽方言・南部方言,琉球方言としては奄美の徳之島浅間方言,与論島方言,そして沖縄の久米島方言を中心にアクセント調査研究を行ない,(久米島を除き)それぞれの資料を公刊した。また,久米島方言については研究発表をし,津軽方言に関しては,啓蒙活動の一環として,地元で方言保存活動をしている人々を相手に講演も行なった。 さらに,理論的な研究としては,アクセントの「中和」をめぐる私見を述べた論文を英文論文集の一章として公刊した。そこでは,従来広く「中和」と言われているものを,音調の静的な「段階」としてアクセントを捉える通説になっている立場ではなく,上昇・下降・平進の「動き」として捉える「動的音調観」に立って,本来の中和(狭義の中和)と,静的には中和とされるものの,動的な観点からは中和ではないもの(広義の中和)とに分け,日本語諸方言,とりわけ琉球諸方言の各種の中和現象を論じた。この立場に立つと,東京方言で有名な「鼻」と「花」が単独発話で中和するか否かは,問題設定自体が意味のないものだということになる。種々の実験研究が異なる結論を出しているのも,私の観点からは,ある意味で当然と言えるものである。 一方,アクセント史に関しては,琉球方言を含む日本祖語のアクセント(およびアイヌ語祖語のアクセント)に関する服部四郎の説を批判的に検討した論文を発表した。長母音の短縮によってアクセント核が発生したとする説を批判し,短縮以前から核は存在したとした。また,私が本土諸方言アクセントの祖形に想定している下降式音調は,琉球諸方言の祖形にも当てはまり,結局は日本祖語の高始まりの語類にまで当てはまるものと考えていることも主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北奥方言や徳之島浅間方言は予定通りに進んだ。北奥方言は用言アクセントの調査も済んでおり,次の論文発表の準備をしている段階である。浅間方言についても,その調査結果を投稿し,採択済みで印刷を待つばかりである。 ただし,調査のもっとも中心に位置付けていた久米島方言は,数度の現地調査にもかかわらず,数地点で話者の都合がつかず,それらの地点については以前の状態のままで止まっている。最終的なアクセント体系の解釈に至る資料が一部欠けていて,残念ながら,結論が出せない状態にある。それらについては,最終年度である本年,可能な限り,話者と調整をして調査をし,結論を出したいと考えている。 また,計画をしていた香川県伊吹島方言は,話者との調整に時間を要しているうちに私の原稿執筆が忙しくなり,残額との関係もあって最終年度に回すことになった。
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Strategy for Future Research Activity |
久米島方言は,地域差が大きいのみならず,そのアクセント体系はこれまで知られていなかったタイプである可能性が大きい。その意味で,最終年度は是非とも,まさに「要地」としての調査を続けられるようにしたいと考えている。これはアクセントの類型論にも貢献し得る課題である。 伊吹島方言は,2拍名詞の対立数を最も多く持っている方言で,その調査研究はかなり進んでいるが,複合名詞のアクセント規則,特に後部要素の関与の仕方についてはなお課題が残っているので,その点も聞いて,調査のし残しのないように進めたい。
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Causes of Carryover |
当初は瀬戸内海の伊吹島方言アクセントを調査する予定でいたが,残額が1万円あまりで旅費には不足していたのと,私の原稿執筆の関係で出張する余裕がなかったので,無理はせず,次年度の額と合算して調査に行くことにした。 具体的には,上述のように,複合名詞アクセント規則のまとめの調査を実施する。
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