2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K02620
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
伊藤 さとみ お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (60347127)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 意味論 / 疑問文 / 文末助詞 / プロソディ |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度には、wh要素を束縛する標識の研究を行った。一つは中国語の文末助詞“ne”であり、もう一つはプロソディである。前者については、この文末助詞のふるまいが分割意味論を支持するものであることを示した。分割意味論では、一部の発話行為的な疑問文を除き、疑問文は共通基盤の分割で表されるが、文末助詞“ne”は、これらの疑問文の文末に現れることができる。一方で、“ne”には、対照話題(Contrastive Topic)をマークすることもある。両者をまとめると、出現場所は異なるものの、“ne”の出現は共通基盤の分割を前提とし、それ自身は分割された部分間の対照を強調する働きをすることを明らかにした。(以上、Ito, S. 2018 “How is contrast marked?” Paper presented at IACL-26 at University of Wisconsin-Madison、及び、Ito, S. in preparation “How are partitions marked?” In E. McCready, et al. (eds.) Semantics of Pragmatic Particles in East and Southeast Asian Languages. Routledge.) 一方、プロソディ、特にイントネーションは疑問文を表す重要なマーカーの一つである。本研究では、中国語では疑問素性を持つ接続詞で構成される選択疑問文と疑問素性を持たない接続詞で構成される選言疑問文を取り上げ、b母国語話者から音声のデータをとり、プロソディの比較を行った。結果として、選択疑問文と選言疑問文はプロソディ上のパターンは同じであることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、以下の二つの成果がある点で、おおむね順調に進展していると言える。まず、第一の成果は、対比の意味のみを表す接辞の存在をと証明したところにある。まず、従来は話題と対比話題、情報焦点と対比焦点など、個別の事象ごとに対比の概念が論じられてきたが、話題と焦点のどちらであっても、対比の概念を含んでいれば“ne”でマークできることが明らかになった。従って、対比自体は一つの概念であり、一つのオペレーターで表されるはずである。このアイディアに基づき、対比を表すオペレーターの定義を行い、対比話題や対比焦点などの概念よりも汎用性の高い装置を提案することができた。これが第一の成果である。 第ニの成果は、プロソディと疑問素性の関係について、データの蓄積と分析ができた点である。中国語のイントネーション疑問文では、文末が上昇するパターンがみられるが、疑問詞や疑問の文末助詞がある疑問文では見られないことがすでに報告されている。そこで、先行研究で取り上げられていない、疑問の選言接続詞からなる選択疑問文と陳述の選言接続詞からなる選言疑問文について、母語話者から音声データの提供を受け、ピッチの高さとピッチ変化の幅に違いがあるかの分析を行い、中国語ではプロソディの特性が文の疑問素性に与える影響は限定的であるという確証を得た。ただし、プロソディの分析が当初より遅れており、今後、疑問文と陳述文の比較や、エコー疑問文までデータを広げる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのところ、1年目には、疑問文を論理的な意味のみのものと発話行為的な意味を帯びるものに分けて分析し、発話行為的な疑問文の意味論の構築が必要と結論付けたが、2年目の研究では、分割意味論(Partition Semantics)を用いれば、一部の発話行為的な疑問文も論理的意味の中に含めることができることが分かった。3年目の研究では、2年目の提案に実質的な意味論を構築し、さらにプロソディと疑問素性との関係についての研究に着手した。そこで、最終年度の4年目では、プロソディと疑問素性の相互作用の研究を引き続き行い、また、以上の研究の総括を行う。 プロソディの研究について、従来よく研究されてきたものには、焦点がある。焦点は構文的に示されることもある一方で、多くは焦点を置かれた語のストレスやピッチ高、音節の引き延ばしなどの特性によって示されることが指摘されている。一方で、疑問文にも特有のプロソディがしばしば見られる。つまり、プロソディという同一の手段は異なる二つの概念を表すために使われている。これが、しばしば阻害効果(Intervention Effects)の出現とその容認度の不安定さを生んでいると思われる。そこで、今後、プロソディ特性に意味論を構築し、疑問のオペレーターや焦点のオペレーターとの相互作用を明らかにし、疑問素性がどのように束縛されるのか、またその束縛がどのような時に阻害されるのかを明らかにする。
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