2018 Fiscal Year Research-status Report
日本語・イタリア語における他言語との接触と音韻構造に関する実証的研究
Project/Area Number |
16K02629
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 真一 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10331034)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 借用語音韻論 / L2知覚 / 二重子音 / 長母音 / 音節 / アクセント / 最適性理論 / プロソディー |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目にあたる2018年度は、おもに以下の3点を中心に実施した。(1)これまでに得られたデータの記述的一般化に対して、最適性理論(Optimality Theory: OT)による理論的な一般化を加えることを試みた。(2)それと同時に、日本語・イタリア語の借用語受け入れについて、新たなデータ収集を実施した。(3)Text settingsなどの他の音韻現象との関連性ついてデータを収集するとともに、両者の異同について対照させ、考察を行った。 (1)の最適性理論に基づく一般化としては、これまで分析してきたイタリア語から日本語に借用される二重子音と長母音、さらには、アクセントの三者を、同じ方法で同時に計算する分析を試みた。その結果、二重子音と長母音とが、一方では共通の、他方では非対称的な受け入れられ方をすることが明らかになった。具体的には、語末付近ではそれ以外の位置と比べ相対的に両者が受け入れられやすいという点では共通し、非対称性については、二重子音では生起位置よりも子音の種類の方が受け入れに大きく関係するのに対し、長母音では、生起位置がもっとも関係することが明らかになった。 (2)の新たなデータ収集については、英語からイタリア語に借用された複合語の強勢付与について、イタリア語の外来語辞書からデータ収集し、分析を開始した。英語からイタリア語に入った複合語の多くが、(英語複合語の前半要素ではなく)後半要素に強勢が付与されることが明らかになった。 (3)他の音韻現象としては、イタリア語における(声援、数え歌、スローガン等の)Text settingsのデータ収集を開始するとともに、すでにデータの蓄積のある、日本語におけるText settings(野球声援、数え歌など)のパターンと対照させるとともに、両言語に入った相手言語からの歌謡における歌詞の音符付与パターンの調査を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度予定していたインフォーマント調査(イタリアで実施予定)が、急な業務等の事情により、実施できなかったため、翌年度に再調整が必要と判断した。 上記に関連して、研究全体の整合性から、これまでのデータの微調整と理論的分析に若干の変更の必要が生じた。も う半年から一年の延長期間があれば、これらの問題を確実にクリアし、研究の遂行・完了が見込まれるため、このような 判断に至った。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度に当たる今年度は、研究実施テーマとしては、おもに以下の4つのことを実施する予定である。(1)イタリア語および日本語を母語とする相手言語の学習者を対象に、L2の生成調査を実施し、すでにデータのある実在借用語の音韻変換パターンと対照する。(2)英語・フランス語・ドイツ語からイタリア語に入った複合語のアクセントパターンを調査し、異なるL2による異同を分析する。(3)日本語・イタリア語に相手言語から入った歌謡について、とくに原語の歌詞に対する音符付与を分析する。(4)これまでに得られたいくつかの知見に対し、最適性理論に基づく分析を継続して行い、この分野において、新たな知見を提供することを目標とする。 具体的な実行案としては、(1)については、イタリア語を母語とする日本語学習者を対象に、イタリアの日本語教育機関で集中的にインフォーマント調査を実施する予定である。(2)については、すでに辞書からの入力が終わっており、必要な部分を抽出した上で分析に入ることとする。(4)については、分析を開始しており、それらの成果を学会や研究会で発表した上で、発展・調整を目指す。 また、研究の成果を、以下の方法で順次、発信することを考えている。 まず第一に、上記の(1)から(4)を含めた、これまでの成果を、国内の全国大会レベルの学会や国際会議等で発表し、他の研究者と意見交換する。それを踏まえ、国内外の学会機関誌をはじめとする雑誌等に、成果を投稿する。また、音声学・音声学に関する入門書にも、本研究費での成果を組み込むことを考えている。 本年度は、研究テーマの最終年にあたるため、4年間全体の成果物を(可能であれば、音源の保存を含め)刊行することを考えている。
|
Causes of Carryover |
研究が予定通り進まなかったため、研究期間を1年間延長し、予算を翌年度に繰り越して使用することとした。
|