2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02632
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
原田 なをみ 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (10374109)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本手話 / 条件文 / 意味論 / 統語論 / うなずき / ロールシフト |
Outline of Annual Research Achievements |
自然言語の条件文は、「もし ...」に相当する前件と、その前件が満たされたとしたら起こりうる事象を述べる後件の二つの部位から成り立っている。従来、日本手話の条件文の特徴としては「前件末尾に『うなずき』が見られる」という観察があった。平成28年度の研究において、その観察が不十分であることを示し、データを分析した結果、日本手話の条件文には(A)うなずき型(B)ロールシフト型の二種類が存在することを主張した。(「ロールシフト」とは、日本手話話者が文を表出中、文中の人物の視線を取ることである。(B)では前件部分を表出中、ロールシフトが継続する。)平成29年度は、その主張を裏付けるため、より広範囲のデータの分析を行ったが、「日本手話に二つの型が存在する」という主張は、次の2点で問題があることが明らかになった。(1)条件文には、前件表出中のロールシフトの末尾にうなずきが出てくる「混合型」が存在する。この混合型の言語学的特徴は不明であった。(2)うなずき型・ロールシフト型の交替の要因が不明である。前年度の研究で、二種類の条件文の前件中の述語の種類を調べたが、二つの型の選択の決め手となるようなアスペクトや語彙範疇に関する明確な指標は見られなかった。この2点の問題を踏まえて、より複雑な(B)ロールシフト型の条件文について分析するため、日本手話のロールシフト現象自体を再考察することにした。具体的には日本手話を母国語とする話者と、画像データを分析し、日本手話のロールシフトが含まれる文には、談話表示理論における談話役割を付すことで、その統語的および意味的特徴を把握した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本手話の条件文に(A)うなずき型(B)ロールシフト型の二種類が存在することが判明した以上、統語および意味的により複雑な構造をもつ「ロールシフト」現象の解明は不可欠であった。従来、日本手話のロールシフトは(i)行動ロールシフト(ii)思考ロールシフトの二種類があると言われてきたが、どちらが条件文に対応するのか、また、そもそも日本手話のロールシフトは、モダリティの異なる音声言語の現象では何に対応するのか、という点については十分な議論がなされていなかった。平成29年度は、この点に関して、他の日本手話研究者のとの討論を交え、上記(i)(ii)の違い(前者は動詞句・後者は補文標識句)について解明でき、また日本手話のロールシフトのデータを談話表示理論の枠組みによって分析したという点で、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
日本手話の条件文の二つの実現形のうち、(B)ロールシフト型に関しては、その特質が把握できたので、今後は(A)うなずき型の分析を進め、二つの実現形の関連や、それぞれの統語的および意味的特徴の理解を目標とする。うなずき型条件文の解明に必要なデータをすでに協力者より受けているため、具体的にはそのデータの分析から着手する予定である。焦点となるのは、次の3点である。(ア)うなずき型の「うなずき」という非手指動作の言語学的特徴(イ)ロールシフト型の条件文の前件のモダリティや法(接続法か否か)(ウ)先行文献において、手話言語のロールシフトは「文脈転換」という提案がなされているが、その検証および「条件文」という文型において、「ロールシフト」に具現化される手話言語の文脈転換が「うなずき」と合わせて条件文という特定の文型に現れることについての考察。 また、日本手話の条件文の非手指要素(うなずきやロールシフト)の理論的な意味付けが完了する目処が立ったため、言語処理の観点からの分析が可能になる。言語処理が専門の研究者の協力を得て、日本手話の条件文の心理言語学的研究も可能であれば進めていく。
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