2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02634
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
山崎 雅人 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (00241498)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 視覚動詞の試行相文法化 / 漂白化 / 保持化 / 主観化 / 間主観化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画の初年度は、前年までに行った朝鮮語と日本語の視覚動詞の分析に、アルタイ諸語の用例を追加することを主とした。これに基づき、言語処理学会第23回年次大会で発表した「アルタイ諸語、朝鮮語と日本語における視覚動詞の試行相文法化用法の展開」の内容は、以下の通りである。 「みる」を本来の視覚活動から試行を表す「~てみる」の意味に転じる文法化現象は、日本語と朝鮮語のほかアルタイ諸語にも広く見られる。本研究は、この文法化用法の特徴を三つの現象「漂白化」「保持化」「主観化」の段階的差異と地理的分布に関連づけて考察した。すなわち、現代ウイグル語やウズベク語などのチュルク諸語、モンゴル語、満洲語文語、朝鮮語、日本語「ミル」には、試行相助動詞化と結果含意・因果関係強調をもたらす漂白化と保持化は見られるが、推量の意味まで持つのは日本語と朝鮮語だけで、さらに意思と丁寧さを表せるのは朝鮮語のみであり、北東・中央・西アジアのアルタイ諸語にはこれらの用法がないため、視覚動詞の試行相文法化用法における主観化は、東アジアの二言語の特徴と見なすことができる。視覚はヒトの主な認知活動であり、多くの言語でその行為を表す動詞は多義性を有するが、本研究はその文法化がアジアの広い範囲に分布する複数言語間に見られ、共通の認知フレームに基づく部分と各語に固有の部分があることを実証した。 この他、チュルク語族で最大の話者数を有するトルコ語は、他のチュルク語族の言語と異なり、この視覚動詞の試行相文法化を持たない点で、きわめて特異であることなどは、言語ごとの特徴として指摘することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は北方アジアおよび中央・西アジアのアルタイ諸語について研究することを計画立案当初から定めており、その通りのデータ収集をすることができたためである。すなわち、現代ウイグル語とモンゴル語の母語話者からデータを蒐集し、また満洲語文語は電子化した『満文金瓶梅』と『擇繙聊斎志異』から当該用例を採集した。これらを一昨年度までに従事した朝鮮語と日本語の視覚動詞の試行相文法化で確立した、認知言語学の三現象に基づく分析を適用して、東アジアの日朝両語とアルタイ諸語との文法化展開の程度に関する差異を明確にするという研究の基本方針を実施することができたためである。ただし、量的に十分な論証データを示すことのできる論考にまとめるところまでには及ばなかったため、「おおむね」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
計画二年目の本年度は、研究対象となるアジア諸言語中で文化的威信が最も高く他の言語への影響を有する漢語の「看」を中心に、その試行を意味する用法に対して、認知言語学的分析を行った先行研究の論考を批判的に継承しつつ、前年のアルタイ諸語を用いた研究の成果に基づいた分析を行う。 他方、アルタイ諸語は三語族からなるが、現代ウイグル語とモンゴル語以外の言語は母語話者を獲得することが容易ではないことがこれまでの調査で分かってきたため、多くのアジア諸語を視野に入れる本研究の遂行に困難が生じうることも予測される。翌年の最終年度でのデータ収集における実施可能性を再検討しつつ、現在の研究環境で可能な母語話者と原資料へのアクセス準備を考慮する。
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Causes of Carryover |
認知言語学関係図書では、昨年Cognitive Linguistics(ed. Masa-aki Yamanashi, 5-volumes)が刊行され、同研究の基本的文献としてほぼ予定していた金額で購入できたが、今年はアルタイ諸語関係図書で本研究に関連するものの刊行が少なく、一点にとどまったため。 また、国内旅費は、関東に四度を見越していたが、日本認知言語学会(東京・中野)と言語処理学会(茨城・つくば)の二回にとどまったことにより、支出が少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き、和書・洋書さらに中国書をひろく調査して、認知言語学関係図書とアジア諸言語関係図書を購入する。今年度は、後者の諸言語の関係図書や言語資料の購入を広範に行うことで、前年度に使用しなかった金額を消費するものと考える。
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Research Products
(2 results)