2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02638
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
浅田 裕子 昭和女子大学, グローバルビジネス学部, 准教授 (10735476)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本手話 / 日本語 / 等位構造 / 生成文法 / 同時性 / 統辞論 / List buoy |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本手話における等位構造の統語・意味特性の体系的記述を主たる目的としている。本年度は、初年度に引き続き、日本手話母語話者の協力を得ながら、まず、音声言語では観察されていない等位句の音韻表示の同時性についてのデータ収集を行った。動詞句と異なり、指示的名詞句は同時に表出することができないという観察が得られ、この観察に関する分析と一般言語理論に対する含意についての成果を、国際学会・国際学会誌で発表した。 次に、初年度のデータ収集で観察された日本手話に観察される等位接続の「一般用法」(例:「彼と彼女(どちらか)が来た」)に関するより詳しい調査を行った。この等位接続の「一般用法」はアメリカ手話と日本語、日本手話に観察されるが、その用法において統語的・意味的差異があることを初年度の研究で指摘し、言語間差異を説明するための仮説を提案した。これを踏まえて本年度は、日本手話・日本語の母語話者を対象に調査を実施し、その仮説を実証することができた。この成果は、国際学術専門誌に投稿予定である。 最後に、List Buoys (Liddell 2003)として知られる非利き手によるサインが、日本手話でも等位接続詞として使用されていることが調査の中で確認された。本研究では、従来の諸手話言語の研究で報告されていない「内向き」タイプのList Buoyが存在することを確認し、国内学会で報告した。更に、このタイプのList Buoyは、日本語話者が数を数える時のジェスチャーと類似していることから、日本手話・日本語の母語話者を対象に、ジェスチャーとList Buoyの比較調査を行った。興味深いことに、この結果はジェスチャーと人間言語の違いが何かに関する理論的貢献を示唆しており、幼児の言語獲得ともその内実が一致している。これらの研究成果は、次年度に国際学会で発表、国際学術専門誌に投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に続き本年度も、日本手話ネイティブサイナーの協力に恵まれた研究体制のもと、日本手話の等位接続の体系的記述のための詳細なデータ収集を行うことができた。研究協力者との双方向の交流が進んでおり、研究成果を共有することで更なる知見を得ることができている。この研究環境は次年度以降も期待できる。 調査項目に関しては、これまで体系的調査がなされてこなかったことを踏まえ、段階を追ってデータ収集を実施してきた。その中でも、当初予想していなかった研究成果として、従来研究で報告のなかった新タイプのList Buoyの発見があった。List Buoyは、等位接続詞の一つとして知られているが、今回の研究では、非利き手の指を一本ずつ横向きに伸ばしていく従来タイプに加えて、指を一本一本中に折っていく「内向き」タイプのList Buoyが存在することが確認された。更にこの新タイプと従来タイプについては、母語話者も無意識的に行っている精密な使い分け規則があることが確認され、新タイプのList Buoyは、数を列挙するときのジェスチャーが言語化したものであるという仮説を立てることができた。この成果により、幼児の言語獲得や言語進化に関する理論への貢献が期待でき、研究課題が実証的広がりをみせている。次年度は、この仮説を更に検証することも視野に入れ、日本手話の等位接続構文に関する体系的記述をめざす予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度となる来年度は、日本手話の等位接続の特性に関して体系的記述を目指し、次の項目についての調査とその分析を行うことを予定している。 1. 同時表出が可能な動詞句の等位接続は何か。それらを可能にしている制約は何か。うなずき、視線などの非手指動作との関連は何か。なぜ、他の形容詞句、述語的名詞句などの統語範疇ではそれが可能か。 2. wh-疑問文、話題化構文、関係詞節構文において、等位構造制約 (Coordinate Structure Constraint) が働くかどうか(例:*Who did [you like John but Mary hate _]?); 2の諸構文において、等位句からの要素の移動が全域的 (Across-the-Board) である「ATB移動」が容認されるかどうか(例:Who did [you like _ but Mary hate _]?): 英語などの言語では意味的に非対称な等位接続構文において、等位構造制約が働かない場合があることが観察されているが、日本手話ではどのような振る舞いになるか。例 a. Harry [went to the store and bought milk].; b. #Harry [bought milk and went to the store].; c. What did Harry [go to the store and buy _ ]? 特に、2についてはWh-構文についての知見が重要であるが、この点に関して関東・関西の手話研究会で研究者との交流をもつ予定である。
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Causes of Carryover |
研究協力者のインタヴューセッションでの交通費を多く見積もってしまった。 来年度に使用予定。
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Research Products
(3 results)