2017 Fiscal Year Research-status Report
日本語を中心とした比較統語論に基づくラベリングの研究
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16K02647
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
斎藤 衛 南山大学, 国際教養学部, 教授 (70186964)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 比較統語論 / 併合 / ラベル付け / フェイズ / 転送領域 / 移動現象 / 照応形束縛 / 文法格 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度も、極小主義モデルの中心をなすラベル付けと転送に関する研究を進めた。 (1) "(A) Case for labeling: Labeling in languages without phi-feature agreement" (The Linguistic Review 33: 129-175, 2016) で、接辞文法格が句を不可視的にすることを根幹とした日本語におけるラベル付けのメカニズムを提示したが、この提案の帰結として theta 規準を文法理論から完全に除去すべきであることを論じた "Labeling and argument doubling in Japanese" を Tsing Hua Journal of Chinese Studies (47.2: 383-405) に公刊した。 (2) 転送領域に関する研究を "Notes on the locality of anaphor binding and A-movement" (Invited Article) と題する論文にまとめ、English Linguistics (34: 1-33) に公刊した。提案は、(i) 転送領域はフェイズであり、上位フェイズの完成時に転送がなされる、(ii) phi 素性の転位時に新たなフェイズが形成される、という2点であり、言語間変異を予測するだけでなく、制御の移動分析とフェイズ理論の矛盾を解消することを示した。 (3) 2017年度に出版された Handbook of Japanese Syntax (De Gruyter Mouton) の "Ellipsis" に関する章 (701-750)、Syntactic Structures after 60 Years (De Gruyter Mouton) の "Transformations" に関する章 (255-282) を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究を着実に進め、当初の研究計画に記載した事項の多くについては、すでに一応の結論を得ている。同時に、これまでの成果は、より根本的な新たな研究課題を提示するものであり、プロジェクトの最終年度となる2018年度には、これらにも取り組むことになる。 ラベル付けに関する研究では、接辞文法格が句を不可視的にするという仮説により、すでに、多重主語文、自由語順、項省略、複合述語の多用など、日本語文法の特徴的現象に分析を与えている。この成果は、接辞文法格がなぜこのような機能を有するのか、というより根本的な研究課題を提示するものであり、すでに2018年度に向けてこの課題に取り組んでいる。また、ラベル付けに基づく項省略の分析は、同様の手法で省略現象全般を分析する可能性を示唆するものである。このように、対象とする現象においてもプロジェクトが広がりを見せている。 転送領域の研究では、照応形束縛とA移動の局所性に関する成果を、上述の論文にまとめ、公表した。この論文は、特に、日英語の相違に代表される言語間変異に、phi素性の有無に基づく説明を与えたものである。残された課題としては、格素性与値とA’ 移動の局所性をも捉える方向で、仮説を発展させることがある。この課題については、予定通りに、コネティカット大学言語学科のZeljko Boskovic教授、Ian Roberts教授とともに研究を行っており、2018年度もこれを継続する。また、Noam Chomsky氏の2017年Reading講義に基づく北原久嗣氏の提案など、最近、適正束縛条件に関する研究が大きな展開を見せている。本研究プロジェクトの当初の計画には含まれていなかったが、照応形束縛のみならず、適正束縛現象においても、日英語間で相違が観察されることから、これにも説明を与えることをめざす。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) ラベル付けに関する研究では、接辞文法格が句を不可視的にする根拠を追求する。具体的には、格を句構造上の主要部とみなすKP仮説を採用し、同時に Chomsky 2015 が提案する強弱主要部の区別を用いて、接辞文法格の性質に説明を与える。この成果は、McGill大学言語学科の論集に発表する予定である。 (2) 転送領域については、格与値とA’移動の局所性の解明と日英語における適正束縛現象の説明を主要なテーマとする。前者については、Zeljko Boskovic氏、Ian Roberts氏とコネティカット大学において集中的に共同研究を行う。後者は、慶應義塾大学の北原久嗣氏と意見交換をしながら、Noam Chomsky氏がReading講義において提案したワークスペース理論を基礎として研究を進める。研究成果の一部を論文にまとめ、韓国生成文法学会機関誌 Studies in Generative Grammar に発表することになっている。 (3) 接辞文法格がラベル付けにおいて句を不可視的にするという提案をめぐるワークショップが、宮川繁氏を中心として、2018年8月に東京大学で開催される。このワークショップを契機として、提案の内容をさらに深め、日本語文法格に関する包括的な研究にも取り組む。特に、主格目的語の分布、二重対格制約、属格主語の分布などに正確な分析を与えることをめざす。 (4) いわゆるカートグフィー構造について、ジュネーヴ大学、シエナ大学の Luigi Rizzi教授を中心とする研究グループとともに、言語間変異の考察と意味分析による説明を追求している。焦点の統語的表示と単一性が中心的なテーマであるが、出張/招聘による集中的な討議を行い、必要があればワークショップを開催して、この共同研究をまとめる。
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Causes of Carryover |
予定通りに、コネティカット大学に滞在して、Zeljko Boskovic教授、Ian Roberts客員教授と共同研究を行ったが、今回は招聘されたため、外国旅費が不要となった。共同研究は継続しており、同大学に出張するための外国旅費は2018年度に必要となる。
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Research Products
(8 results)