2016 Fiscal Year Research-status Report
ゾゾ語(若柔語,Zauzou)授与動詞構文の記述研究―類型的特徴の分析に向けて―
Project/Area Number |
16K02651
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
宮岸 哲也 安田女子大学, 文学部, 准教授 (30289269)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | チベット=ビルマ系言語 / ゾゾ語 / 授与動詞構文 / 動詞構文 / 格体系 / 消滅危機言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究成果を大きく二つに分けると、①ゾゾ語全般の記述に必要なデータの収集と分析、及び②ゾゾ語の授与動詞構文とその諸用法の成立条件を探るための予備的データの暫定的な整理を挙げることができる。 ①の具体的内容としては、(1)「ゾゾ語基本語彙3000語」の入手、(2)「ゾゾ語民話の音声データ」の収集と国際音声記号による表記、(3)「ゾゾ語基本動詞508リスト」における基本動詞の抽出と用例作成がある。これらの資料は、消滅の危機にあるゾゾ語の音韻体系、語彙、文法構造の記述・保存という点で意義があり、チベット=ビルマ系言語の比較研究にも有用であると考える。 なお、(3)の資料をもとにゾゾ語の動詞構文と格体系を分析した結果、ゾゾ語の格体系について従来の研究よりも包括的かつ精密な記述ができた。具体的にはゾゾ語の格体系において、a)主格、対格(不定)、位格、目標格が無標識であること、b)対格(特定)と与格が同標識であること、c)動作主格、具格、起点格が同標識であること、d)到達格、共格、同格、比格、所有格がそれぞれ異なる標識であること、e)自動詞の主語が原則的に無標識の主格であるのに対し、他動詞の主語は経験者であれば無標識であり、動作主であれば動作主格をとることを明らかにした。 ②の具体的内容としては、(4)「ゾゾ語の授与補助動詞構文の用例データ(暫定版)」の作成がある。これは授与補助動詞構文の前項動詞となる動詞として「ゾゾ語基本動詞508語リスト」から、23種類に意味分類した151動詞を抽出し、それぞれの授与補助動詞文の用例をゾゾ語母語話者の研究協力者の助けを得て作成したものである。これは、本研究の主要テーマである「ゾゾ語の授与補助動詞構文の記述研究」に入るための基礎的なデータとなり、これからゾゾ語の授与補助動詞構文の規則性について分析し仮説を立ていく上で重要なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ゾゾ語母語話者の研究協力者である李紹恩氏の協力により、ゾゾ語のデータ収集はおおむね順調に進んでいる。また、無文字言語であるゾゾ語の国際音声記号による表記も、李紹恩氏の協力により順調に進み、データベース化も予定通り進んでいる。なお李紹恩氏には、データベース用の例文作成の際に自身の判断のみならず、適宜他のゾゾ語母語話者に対する確認も併せて行い、データの妥当性の向上に努めていただいている。そのため、今回は当初予定していた複数のゾゾ語母語話者に対する用例の正誤判断調査は行わずに、作業を進めることができた。結果として、授受補助動詞構文のデータ収集を前倒しで行うことができたので、進捗状況としては当初の計画以上に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、収集したデータに基づきゾゾ語全般の更なる記述を進めていく。その中でも次年度は特に「名詞句の構造」について分析を行い、同様のテーマで研究が進んでいる他のチベット=ビルマ系言語との比較研究に貢献していきたいと考えている。 また、本研究の主要テーマであるゾゾ語の授与動詞構文については、まず今回収集したデータを整理・分析することで、授与補助動詞構文における前項動詞と意味用法の関係、及び受益者標示等の規則性について仮説を提示したい。そして、仮説検証のための更なる調査を行うことで、ゾゾ語の授与動詞構文の正確な記述を目指したい。また、ゾゾ語と同系のチベット・ビルマ語派ロロ語支に属する諸言語の授与補助動詞構文の用法についても先行研究を通して概観的に調べ、これらをゾゾ語と比較することで、同系統の言語の中におけるゾゾ語の授与補助動詞構文の特徴を明らかにしていきたい。
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